東銀座の「八五」(PHOTO:SEVENTIE TWO)

筆者は、昨年「ラーメンはファッション」だという短期集中連載をウェブメディア「LEON」で執筆した(興味のある方はご参照ください)。その際にとくに素晴らしいラーメンだとひときわ驚嘆したのが東銀座の「銀座中華そば八五(はちご)」だった。すでに「ミシュランガイド東京」ではビブグルマン(安価ながらも推薦できる店)に3年連続で登場し、2022年には、「蔦(つた)」「創作麺工房 鳴龍(NAKIRYU)」に次ぐ3店目のラーメン一ツ星の獲得が有望視されていた。

それがなんとその「八五」を含む株式会社勝本が、今年3月16日付で東京地方裁判所から破産手続の開始決定をうけ、倒産していたのだ。2015年2月に設立された同社は、東京の水道橋・神保町、銀座、虎ノ門などで「勝本 水道橋店」「中華そば銀座八五」「中華そば勝本虎ノ門」「神田 勝本」(神保町)など5店舗で営業を行なっていた。厳選された出汁や食材、仕込みを各店舗で自前で行うなど徹底したこだわりに加え、落ち着いた店舗内装などが支持され、雑誌やテレビなどのメディアにも頻繁に取り上げられるなど評判になっていた。株式会社勝本の2021年1月期の売上高は2億100万円だった。しかし今回破産宣告を受けた。負債総額は14億5000万円だという。

ミシュラン一ツ星が有望視される「中華そば銀座八五」を始めとして、5店はいずれもたいへんな行列店だった。信用情報機関ではコロナによる大幅な客数減による売上減少で資金繰り悪化が原因と分析されているが、あの行列ぶりを知る者としては首をかしげてしまうのだ。

最近の有名ラーメン店の倒産と言えば、「ラーメン界のイチロー」の異名をとる森住康二氏が手掛ける有名ラーメン店「ちゃぶ屋」(護国寺本店)などを運営するCHABYA JAPANが2012年4月に破産したことが近年では知られている。この護国寺の「ちゃぶ屋」はピーク時には1日500人の客が訪れていたという(Sankei Biz 2012.4.27)。

また倒産ではないが、「とんこつラーメン」を全国区にしたことで知られる川原ひろし氏率いる環七ラーメンこと「なんでんかんでん」(1987年7月オープン)が2012年に25年の歴史に幕を閉じて、その後高円寺で2018年に復活したと思ったら、2019年11月閉店し、その後2020年1月20日から渋谷センター街にある「渋谷肉横丁」に新たに小さな店(フランチャイズ店で川原氏の店ではない)を構えていたが、これもコロナの影響で同年6月には閉店。現在は2021年12月にオープンした西新宿店で営業中だ。川原氏によれば環七店を閉めた時の借金は5億円ほどあったという。環七店は、ピーク時環七沿いに毎晩1000人を超える行列があって、年商3億円(1日100万円の売り上げ。1杯800円として1月1200杯)あったという(「NEWSポストセブン」2016年2月20日)。同店は、1980年代後半から1990年代前半にかけてのバブル経済のシンボルのような店だった。それでいて5億円近い借金だったというのだ。いかにラーメン・ビジネスというのが儲からないのかが分かる。

この「なんでんかんでん」に比べれば、儲かっていたと言っても「勝本」の場合はタカが知れているということになるかもしれない。株式会社勝本の松村靖社長は全日空ホテル京都の料理長まで上りつめた料理人で、取材中も穏やかな物腰が印象的だった人物だ。まさかギャンブル・酒・色で大きな借金を背負ったということは考えづらい。あるいは保証人地獄に巻き込まれたということでもあったのだろうか。また、今年の1月5日に松村靖社長名義で「各方面で『八五』の日本国内FC展開、海外ライセンス提携などについて、弊社が預かり知らぬ所で進められていることが判明しました。FCやライセンスに興味を持って頂いた皆様に被害が及んでいないかと考え、広く皆様にいち早くお知らせしたくSNSでの発表させて頂きました」という案内があった。これと今回の倒産が何らかの関係があるのだろうか?

ミシュラン一ツ星有望の有名行列ラーメン店「八五」の勝本が倒産していた!
(画像=『SEVENTIE TWO』より 引用)

株式会社勝本の松村靖社長

いずれにしても、ラーメン業界の厳しさがひしひしと伝わってくるような勝本の破産ではある。是非現代のラーメンの最高峰を極めた東銀座の「八五」だけでも復活して頂きたいものではあるが。

ミシュラン一ツ星有望の有名行列ラーメン店「八五」の勝本が倒産していた!
(画像=『SEVENTIE TWO』より 引用)

文・三浦彰/提供元・SEVENTIE TWO

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