干潟に生息し「生きた化石」として有名なカブトガニ。実は医学に欠かせない存在であり、それゆえにいまその生存が危ぶまれています。

カブトガニの放流事業が実施

干潟の生き物の中でも高い知名度を誇りながら、生息地や生息数が減少しているカブトガニの幼生を放流する催しが、瀬戸内海に面した愛媛県西条市の河原津海岸で開催されました。

家族連れら約100人が参加したこのイベントでは、まずは全員で海岸の清掃を実施。続いて干潟の生き物調査を行い、参加者たちは干潟に対する理解を高めました。

コロナワクチン需要が増大すると『カブトガニ』が積極放流されるワケ
(画像=幼生も成体と同じ形状をしている(提供:PhotoAC)、『TSURINEWS』より引用)

その後、天然繁殖地として有名な岡山県笠岡市のカブトガニ博物館から送られた、全長2cmほどの約1000匹の幼生を干潟に放流しました。

平成6年から毎年夏に河原津海岸で幼生の放流事業を継続している、イベント主催の東予郷土館館長は「カブトガニを通じて自然環境保全の大切さを伝えたい」とメディアに語ったそうです。(『医療現場でも活躍 「生きた化石」カブトガニ生存危機』産経新聞 2021.8.22)

生きた化石「カブトガニ」

2億年前からほとんど姿を変えることなく生きていることから「生きている化石」と呼ばれるカブトガニ。彼らは現在では主に瀬戸内海から九州北部の沿岸に生息しており、「カニ」と名がつくものの、どちらかというとクモやサソリに近い生き物です。

兜のようなドーム状のシルエットに、2つの複眼と7つの単眼を持つというユニークな形態をもつ彼らは、その生態も非常に独特。自然の干潟では成体になるまでに10年以上かかり、一生で15回以上も脱皮するといわれています。

コロナワクチン需要が増大すると『カブトガニ』が積極放流されるワケ
(画像=カブトガニの裏側(提供:PhotoAC)、『TSURINEWS』より引用)

孵化後、10度目の脱皮を行うくらいまでは、砂泥に半ば埋もれるようにして過ごします。餌は干潟に多いゴカイなどの小動物であると考えられています。 カブトガニはかつては瀬戸内海を中心に非常に沢山の数が生息していましたが、繁殖地である干潟の埋め立てのために数が激減し、現在では各地で天然記念物に指定され、保護されています。

カブトガニの血でワクチン製造

こんな不思議な生き物であるカブトガニですが、実は人間の医療技術に多大な貢献をしている存在です。カブトガニの青い血液から得られる「ライセート」という試薬は、内毒素(細菌内の細胞壁に含まれる毒素)を検出できる、現時点では唯一の天然資源なのです。

カブトガニの血液には、内毒素と反応すると、その血球である変形細胞が凝固して塊となるという性質があります。これは我々の血液において異物を白血球がのみこんだり、菌やウイルスに対して免疫が働いたりするのと同様に、カブトガニが身を守るために発達させた機構のひとつであると考えられています。

コロナワクチン需要が増大すると『カブトガニ』が積極放流されるワケ
(画像=カブトガニはワクチン製造に欠かせない(提供:PhotoAC)、『TSURINEWS』より引用)

このライセートを用いることで、人体に投与しようとする医薬品やワクチンの中に、有害な細菌が含まれていないか検査することができるのです。このライセートを採るために、年間50万匹のカブトガニが捕獲され、その多くが死亡しているという現実があります。

世界的なコロナワクチン開発と需要により、カブトガニの採捕スピードがより一層上がることも懸念されています。代替成分の開発も進められていますが、現時点では安全性などの面でライセートに及ぶものは完成していないようです。

カブトガニが絶滅してしまうようなことがあれば人類にとっても計り知れないダメージとなるため、医薬品メーカーによる幼生の放流事業が行われています。

<脇本 哲朗/サカナ研究所>

提供元・TSURINEWS

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