約3800年前に史上最大級の地震がチリ沖で発生していたことが、新たな研究で明らかになりました。
マグニチュードは9.5に達し、巨大な津波をともなってチリ北部を襲い、沿岸部のコミュニティを壊滅させたという。
また遺跡の調査から、人々が沿岸部に居を戻すまでに1000年かかったことが示されています。
さらに、地震によって発生した津波は、遠くニュージーランドまで到達し、車サイズの巨岩を内陸深くに運び込んだようです。
研究の詳細は、2022年4月6日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されました。
目次
3800年前に起きた「史上最大級の地震」の痕跡を特定
1000年間、沿岸部に寄り付かなくなっていた
3800年前に起きた「史上最大級の地震」の痕跡を特定
チリ大学(University of Chile)の人類学者ディエゴ・サラザール(Diego Salazar)氏率いる研究チームは、チリ北部のアタカマ砂漠地域で数年にわたる調査を行ってきました。
ここは、ナスカプレートと南アメリカプレートの接するポイントに近く、前者が後者の下に沈み込んでいるため、巨大な地震が発生しやすい場所です。
この領域の地震は、2つのプレートがこすれ合い摩擦面が破壊されることで発生し、その破壊の時間が長くなるほど、揺れの規模も大きくなります。
それが原因で起きた観測史上最大級の地震は、1960年5月、チリ南部で発生した「バルディビア地震」です。
これは、チリ中部〜南部にかけての近海、長さ約1000キロ・幅200キロを震源域とした超巨大地震であり、マグニチュード9.2(M9.5との報告もあるが現在は過大評価とされる)を記録しました。
このチリ地震で発生した津波は、日本の東北地方にまで押し寄せ、太平洋沿岸地域に大きな被害を及ぼしました。
ところが、これと同程度かそれ以上の規模を持つ地震が、かつてのチリ北部で起きていたのです。
この発見は、アタカマ砂漠沿岸の隆起した堆積物、津波によって高台に打ち上げられた海洋岩石、大量の貝殻、海洋生物のサンプルなどから証明されました。
サラザール氏は「チリ北部では、これほど大規模な地震は起きないと思われていた」と指摘。
「なぜなら、北部エリアでは(プレートの擦れによる)十分な長さの破壊が起きないと考えられていたからです。
しかし私たちは、アタカマ砂漠の海岸近くで、長さ約1000キロに及ぶ破壊の証拠を見つけたのです」
共同著者で、ニューサウスウェールズ大学(UNSW・豪)の地質学者ジェームス・ゴフ(James Goff)氏は、こう言います。
「私たちは、巨大なプレートの破壊によってチリ北部の海岸線が隆起した痕跡を発見し、内陸に投げ込まれる前に海で静かに暮らしていたであろう多くの生物の遺骸を見つけました。
これらはすべて、海岸部の非常に高い位置で、しかも内陸深くまで運ばれていました。
ですから、嵐ではなく、巨大な津波によって高台に投げ出された可能性が高いのです」
研究チームは、チリ北部の海岸線、約600キロにわたって沿岸堆積物を収集し、放射性炭素の年代測定を実施。
その結果、これらは約3800年前のものであることが特定されました。
また、ゴフ氏は以前、ニュージーランドのチャタム諸島にある遺跡を調査していた折、沿岸から数百メートル離れた内陸で、車サイズの海洋岩石を大量に発見していました。
これらの年代測定をしたところ、チリ北部の地震と同じ約3800年前のものであることが判明したのです。
ゴフ氏は「ニュージーランドで見つかった巨岩は、チリ北部で発生した津波によって内陸に運ばれたと見られ、それほどの津波を生み出すには、マグニチュード9.5の地震が必要なのです」と説明します。
遠くニュージーランドにまで達したことを考えると、チリ北部沿岸への被害は甚大なものだったでしょう。
当時の人々は、この巨大地震と津波にどのような反応を示したのでしょうか?
1000年間、沿岸部に寄り付かなくなっていた
約3800年前、アタカマ砂漠の沿岸部に住んでいたのは、狩猟採集民のコミュニティでした。
今回の発掘調査では、津波で破壊されたと見られる石造りの建物が堆積物の下から出土しており、さらに、津波の引き潮で海側に倒壊した建物も見つかっています。
どれほどの人が被害を受けたかは定かでありませんが、災害後の遺物を調べてみると、同地には約1000年もの間、人々が寄り付かなくなっていたことが示されました。
サラザール氏によると、この地にはそれまで1万年近くも人々が住んでいたそうですが、当時の巨大地震は、彼らを内陸部へと移住させるのに十分なインパクトがあったのでしょう。
ゴフ氏は、次のように話します。
「地元住民には何も残されていませんでした。社会は大混乱に陥り、彼らは津波が及ばない内陸部へと移動していったようです。
人々が再び海岸に住むようになるには1000年以上かかっていますが、食料を海に頼っていたことを考えると、これは驚くべき長さです」
一方で、南太平洋に浮かぶ他の島々は、当時無人島であったため、地震や津波の人的な被害がなかったようです。
しかし現在は、これらの島々にも十分な人口があり、その多くは観光地にもなっています。
1960年のチリ地震でも、震源から遠く離れたハワイや日本にまで大きな被害が及んでいます。
今回発見された地震の正確な規模を推定するには、まだ調査が必要でしょうが、もしチリ地震以上の超巨大地震がこの地域から発生する可能性があるならば、日本を含め太平洋沿岸の地域は十分警戒しておく必要があるでしょう。
研究チームは、今回の発見について、「太平洋地域における地震と津波の危険性を理解し、次にこのような超巨大地震が発生したときに、その影響がどれ程になるかを知る上で、非常に重要な示唆を与えてくれる」と述べています。
参考文献
An Atacama Super-Quake We Never Knew About Sent Humans Into Hiding For 1,000 Years
Scientists discover ancient earthquake, as powerful as the biggest ever recorded
元論文
Did a 3800-year-old Mw ~9.5 earthquake trigger major social disruption in the Atacama Desert?
提供元・ナゾロジー
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