イカは、周囲の環境色に合わせて擬態することで有名ですが、実はそのカモフラージュ能力が知られているのは、主に「コウイカ(cuttlefish)」というグループです。

もう一方の「ツツイカ(Squid)」では、そのような能力はいまだ報告されていません。

しかしこのほど、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究により、ツツイカでもカモフラージュ能力が確認されました。

実験室の条件下でツツイカの擬態がカメラで撮影されたのは、今回が初のことです。

研究の詳細は、2022年3月28日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。

目次
偶然見つかったツツイカのカモフラージュ能力
イカって、どのように色を変えているのか?

偶然見つかったツツイカのカモフラージュ能力

ツツイカの「カモフラージュ能力」が水槽の掃除中に偶然発見される!
(画像=コウイカ / Credt: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

コウイカは、水深10〜100m程度の海域に生息するため、研究や飼育が比較的容易です。

一方のツツイカはおもに外洋に分布する傾向にあるため、飼育や擬態の調査が困難でした。

しかし2017年に、OISTの物理生物学ユニットの研究チームは、ツツイカに分類されるアオリイカの1種を長期飼育化し、実験観察を行うことに成功しました。

このイカは、地元沖縄で「シロイチャー(シロイカ)」と呼ばれ、親しまれています。

研究チームは、このツツイカが、普段は淡い白色をしてるものの、海底に近づくことでまったく違う色になるのではないか、と考えました。

研究主任の一人である中島隆太氏は、こう話します。

「通常、ツツイカは外洋で遊泳していますが、このような外洋と浅海の両方を生活圏としたイカが、サンゴ礁に少し近づいたり、捕食者によって海底に追い詰められたりするとどうなるかを調べたいと思いました」

ツツイカの「カモフラージュ能力」が水槽の掃除中に偶然発見される!
(画像=マリン・サイエンス・ステーションで飼育に成功した沖縄のアオリイカ / Credit: OIST/ 中島隆太博士(2022)、『ナゾロジー』より引用)

しかし、ツツイカのカモフラージュ能力は、飼育下で偶然発見されました。

OISTの臨海研究施設であるマリン・サイエンス・ステーションにて、研究員が水槽に生えた藻類の掃除をしていたところ、藻類のなくなった場所と、まだある場所で、ツツイカが体色を変えていることに気づいたのです。

そこでチームは、飼育下にある数匹のツツイカを水槽内に入れて、観察。

水槽の半分はきれいに掃除し、もう半分は藻類に覆われたままにしました。

すると、すべてのツツイカが、その境界線をこえる瞬間に、すばやく体色を変化させていたのです。

藻類のない場所では、淡い白色をしており、藻類のある場所に入ると、それに合わせて黒っぽく変化していました。

変色は2秒以内で完了しています。

ツツイカの「カモフラージュ能力」が水槽の掃除中に偶然発見される!
(画像=藻類のある場所に入ると、黒っぽく変色するアオリイカ / Credit: OIST/ 中島隆太博士(2022)、『ナゾロジー』より引用)

この結果から、ツツイカの生存に周囲の生息環境がおおいに役立っていることが示されました。

中島氏は「ツツイカが捕食を避ける上で、生息環境が重要な役割を果たすのであれば、ツツイカの個体数の増減とサンゴ礁が健全であることの間には、私たちが想像していた以上に関連がある」と指摘します。

また、同チームのズデニェク・ライブネル(Zdenek Lajbner)氏は「この能力にこれまで誰も気づかなかったことに、いまだに驚いている。

これらの素晴らしい動物について、知らないことがいかに多いかということが分かる」と話しています。

ツツイカの「カモフラージュ能力」が水槽の掃除中に偶然発見される!
(画像=藻類があるかないかでこれだけ変色する / Credit: Ryuta Nakajima et al., Scientific Reports(2022)、『ナゾロジー』より引用)

チームは今後、ツツイカが周囲の環境をどのように見ているかを探るべく、「視覚能力」についても調べていくとのこと。

それらの結果は、ツツイカの保護活動にも役立つと期待しています。

イカって、どのように色を変えているのか?

イカのカモフラージュ能の仕組みは、かなり多くのことがわかっています。

まず、イカには「色素胞」と「虹色素胞」という2つの色素細胞があります。

色素胞には、弾性のある小さな袋が入っており、さらにその中に「オモクローム」という色素が入っています。

オモクロームには、赤色・黄色・褐色の3つがあり、オモクロームに入っているのはどれか一色のみです。

色素胞は、筋繊維によって自在に伸び縮みし、それが伸びたときに弾性のある袋も一緒に広がって、オモクロームの部分が大きくなり、体も変色します。

反対に、袋が縮むときはオモクロームも小さくなるので、体色が普通の淡白な色になります。

また、赤色・黄色・褐色のオモクロームを含んだ色素胞が、皮膚上で何層にも重なっているため、イカの体色は複雑に変化できるのです。

ツツイカの「カモフラージュ能力」が水槽の掃除中に偶然発見される!
(画像=「色素胞」と「虹色素胞」で体色が変幻自在 / Credit: canva、『ナゾロジー』より引用)

それから虹色素胞は、文字通り虹色に光る細胞で、中に色素は入っていません。

板状の細胞が光を反射することで、虹色の構造色を生み出します。

こうした色の変化を組み合わせることで、イカはカモフラージュをしたり、メスにアピールしたり、ライバルを威嚇したりするのです。


参考文献

Video Shows Off a Squid’s Unexpected Camouflage Skill For The First Time

第3の頭足類ツツイカが背景に合わせて体色を変化させることを初めて記録

元論文

Squid adjust their body color according to substrate


提供元・ナゾロジー

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