食事についての悩みを抱えている人たちは大勢いて、特に多いのが「クレービング」と呼ばれる状態だ。クレービングとは「渇望」のことだ。この感覚が湧き起こると、いてもたってもいられなくなり、渇望した食べ物を食べなければその感覚から逃れることができなくなる。そんな欲求が突然現れるから、減量食を開始しても続けられず、その時点で断念してしまうという人が多いのだ。 どうしたらこの渇望を抑制することができるのか。どうすれば最初から最後まで減量食を続けられるのか。今回は食べ物における渇望とどう向き合えばいいのかについて解説していきたい。
「食べたい」という気持ちになったとき、必ずしもそれを我慢しなければならないというわけではない。
なぜなら、その感覚には意味がある場合もあるからだ。例えば、その渇望が体が発するシグナルだとしたらどうだろうか。渇望感が湧くのは、ホルモンに異常があるからかもしれないし、特定の栄養素が不足しているからかもしれないのだ。渇望に対しては、我慢するだけではなく、うまく対処することが必要な場合もある。もちろん、欲求のままに飲み食いしてはいけないが、徹底的に抵抗しようとするから失敗してしまう。
ここで必要なことは、うまく付き合って対応することなのだ。
「肉体の空腹」と 「感情の空腹」
食べたい! そう思うのは、感情からきている場合と、本当に体が食べ物を求めている場合とに分けられる。
例えば私はこの数年、以前に比べると食事量が増えた。ところが、数年前に比べると体重は決して増加していない。
よくよく分析してみたところ、食事量が増えたころから私はトレーニングの指導をするようになったのだが、それによって私の1日の運動量は増加していたのだ。
実際、指導日とオフ日の運動量を比較するために万歩計を付けて過ごしたところ、指導日の平均歩数は1万5千〜1万7千歩で、オフ日に比べると はるかに多かったのだ。 つまり、運動量が増えたことで私の体はそれまでよりも多い食事量を「要求」していたわけだ。
それが私の「食べたい」という渇望感に なっていたのである。
もしこれを 我慢していたら、おそらく筋肉が失われていたに違いない。
一方、カロリーの消費量と摂取量のバランスが十分に取れている にもかかわらず、食べたいという渇望が湧く場合もある。十分な栄養が摂取できる食事をしているにもかかわらず、食べたい欲求が強いときは、それは本当の空腹がも たらす欲求ではないことを知っておいたほうがいい。
ただ単に甘いものが食べたい、脂っこいものが食べたい、塩気のあるものが食べたいというのは空腹感を装うただ の感情なのだ。
『マインドレス・イーティング』 の著者であるブライアン・ワンシ ンク博士によると、肉体が示す空 腹感は緩やかに感知され、そのうち腹が鳴るようになり、時間の経過とともに強まっていく。
本物の空腹感を経て食事をすると、非常に強い満足感が得られるものなのだそうだ。
一方、肉体的には空腹ではないのに、食べたい欲求が湧くのは「感情の空腹状態」であると言える。
感情の空腹状態は、肉体の空腹状態 と異なり突発的に湧いてくる感覚だ。しかも食べないうちから食べ たいものの味が口中に広がり、実際にそれを食べても満腹感が得られなかったりする。
本当に空腹なのかどうか、ただの感情がもたらす空腹なのかどうか、どちらとも判断がつきにくいというときは、次のテストをしてみるといい。
このテストは博士が「ヘルシーフード実験」と呼んでいるもので、被験者は空腹状態のときに、健康的な食べ物と特定の食べ物のどちらが食べたいかを自問するのだ。例えばホウレンソウ、タマネギ、トマト、ピーマンなどが入ったオムレツとドーナッツを比較する。
後者より前者が食べたいと思えば、それは本当の空腹にあると判断できる。
逆に、ドーナッツが食べたいと思えば、それは感情からくる空腹感なのだ。
体が発する声を聞く
空腹感は特定の栄養素が足りていない場合にも感じられる。
それは体が示す合図であり、できるだけ見逃したくない。量的には十分な食事をしていても、その内容がアンバランスだと、特定の栄養素が不足し、それが原因で空腹感がもたらされる。常に空腹感があるという人は特に注意が必要だ。
例えば炭水化物と脂質がメインの食事をしている人は、野菜や果物から得られるはずの栄養素が足りていない場合もある。
そういったケースでは、食事そのものを見直すことで問題は解決することが多い。量より質に重点を置いた食事をすることが大切なのだ。
どの栄養素もバランスよく含まれた食事をしている限り、量はそれほど多くなくても空腹感に悩まされることはなくなるはずだ。栄養素が足りているから健康であり、感情がもたらす飢餓感がないから甘いものを食べたくなる衝動も起きにくい。
つまり、空腹感に悩まされないようにするには質の高い食事をすることが基本なのだ。
質の高い食事とは、三大栄養素は もちろん、微量栄養素もきちんと含まれている食事のことだ。
脂質は摂らないという偏った食事をしていると、これもまた栄養のバラ ンスを崩すことになるので、減量中の人は特に注意が必要だ。
ちなみに、脂質は満腹感を強め てくれるので、結果的に脂質を一切食べないプランより、適量を食 べるほうが無駄に食事量を増やさ ずに済み、減量には役立つ。
例えばアボカド、オリーブ油などは大 いに食べるべきである。このような良質の脂質が食事で不足していると感じるなら、食間のスナック代わりに食べてもいいのである。
頭痛がしたり、頭がすっきりしないというような場合も、やはり何らかの栄養が不足しているという体からの声かもしれない。
タンパク質が足りていなければ疲労感 がいつまでも抜けず、エネルギーレベルが低いときは炭水化物が不足していると考えることができる。
どの栄養素もバランスよく摂取していれば感情による空腹感に悩まされる心配はなくなるので、常に空腹と戦っているという人は、普段の食事を見直したほうがいいだろう。
私の場合は鉄分が不足すると軽い頭痛が起きるようだ。
意識して鉄分を多く含む赤身肉を食べると その症状は緩和される。
また、微量栄養素が不足しているときも、健康なときとは違う症状が現れる ので、そのようなときは緑葉野菜を意識して食べたり、ホウレンソウやケールを材料にしたスムージーを飲むようにしている。
私たちの体は精密な機のよう なものだ。少しでも何かが不足すれば異常を示す。その異常を感知してすぐに食事で調整すれば、私たちはすぐに健康な状態を取り戻すことができるのだ。体が発する声に耳を傾けよう。