近年、若者の「スマホ難聴」が問題視されています。
スマホで音楽や動画を視聴する際、周囲の騒音に対抗しようと音量をどんどんあげてしまうことで、若者でも難聴になる人が増加しているのです。
では利便性を損なわず、スマホ難聴を防ぐ方法はあるのでしょうか?
順天堂大学医学部耳鼻咽喉科に所属する池田 勝久(いけだ かつひさ)氏ら研究チームは、ノイズキャンセリング機能付きイヤホンがスマホ難聴を防ぐと発表しました。
研究の詳細は、2022年3月24日付の学術誌『Journal of Audiology & Otology』に掲載されています。
無自覚でも「スマホ難聴」は進行している
スマホの普及により、多くの人が屋外でも気軽に音楽を聴いたり、動画を視聴したりできます。
特に通勤・通学時などの隙間時間では、今やスマホが欠かせません。
お気に入りの音楽や動画をヘッドホンやイヤホンで聴いている人は多いでしょう。
しかし、これらの要素が重なることで、若者たちの難聴が増えています。
音楽を聴く人は、地下鉄などの騒音に負けないよう音量を大きくする傾向があります。
さらにその状態で長時間聴き続けるため、耳の感覚細胞にダメージが蓄積してしまうのです。
実際、世界保健機関(WHO)は2015年の時点で、世界の11億人の若者がオーディオ機器の不適切な使用によって難聴の危険にさらされていると報告しています。
そしてこの「スマホ難聴」は、少しずつ進行します。
そのため20~30代では自覚症状がなく、40代になって初めて気づくというパターンも少なくありません。
重症化するなら音が聴こえづらいだけでなく、絶えず耳鳴りに悩まされる、なんてケースもあるのです。
10年間気づかずにダメージを与え続けることで、永久的な聴力喪失につながることさえあるでしょう。
では、「気づいたらスマホ難聴になっていた」という事態を防ぐためには、どんな対処法が効果的でしょうか?
池田氏ら研究チームは、どういった種類のイヤホンがスマホ難聴を防ぐのに役立つか検証することにしました。
ノイズキャンセリング機能付きイヤホンがスマホ難聴を防ぐ
研究チームは、聴力が正常な成人23名を対象に、下記の4種類のイヤホンを使用して実験しました。
A:耳置き型
B:ヘッドホン
C:インサート型
D:ノイズキャンセリング機能付きインサート型
参加者はそれぞれのイヤホンを装着し、自身が一番心地よいと思う音量に設定。
そして静寂な環境と地下鉄内の音を流した騒音環境下で、それぞれ設定音量の違いを比較しました。
その結果、ABCのイヤホンでは、騒音下の設定音量が静寂下に比べて増加しました。
特に耳奥に挿入しないタイプのイヤホン(AB)では、危険な音量(85dB以上)まで上がることもあったようです。
しかしDのノイズキャンセリング機能付きイヤホンでは、絶えず安全な音量(75dB以下)に抑えられていました。
ノイズキャンセリング機能が付いていると騒音を取り除いてくれるので、地下鉄のような環境でも音楽の音量を上げずに済むのです。
そのため研究チームは、「騒音環境下では、難聴予防の面からノイズキャンセリング機能の使用が推奨されます」と結論付けました。
さて、通勤・通学時に音楽を聴いている人は多いでしょう。
「突然の難聴」を避けるためには、少し割高だとしても、ノイズキャンセリング機能付きイヤホンを購入した方が良いかもしれませんね。
参考文献
地下鉄内での音楽聴取によって高まる“スマホ難聴”リスク。イヤホンのノイズキャンセリング機能が難聴予防に有用
Effects of an Active Noise Control Technology Applied to Earphones on Preferred Listening Levels in Noisy Environments
提供元・ナゾロジー
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