筋発達というのは思いどおりにはいかないものだ。じれったくて叫びたくなる。しかし、それはみんなわかっているし、経験していることだ。わかってはいるが、どうしても不満が募ってしまうのである。このことは、コンテストに出場する人だけでなく、健康のため、あるいは趣味で身体づくりをしている人にも共通したことだ。誰だって、できることなら目に見える結果を得たいのである。現代人は、とにかくスピード重視だ。だから1分でも早く目的地に着くために特急や快速の電車に乗るし、手早く済ませたいときはファーストフードも利用する。しかし、身体づくりはそういうわけにいかない。努力と忍耐が求められるものなのだ。ここでは超回復を考慮した分割例を紹介する。
【超回復を考慮した分割例1】
●1日目:脚
一週間の始まりは、週末の休日によって心身ともにリフレッシュされている。そういうトレーニーは、このタイミングに高強度の脚のワークアウトを行うといいだろう。脚のワークアウトに組み込まれるスクワットには、体内のテストステロンレベルを高める効果がある。週の初めにテストステロンレベルを高めておくことは、その後のワークアウトにもプラスになるはずだ。
●2日目:胸、肩、上腕三頭筋
いずれも上半身の部位で、下半身の筋肉が刺激されることはない。そのため、1日目の脚のワークアウトで疲労した下半身に十分な休息を与えることができる。また、この日に刺激する部位は、上半身の中でも上方に位置しているため、脚のワークアウトで疲労した腰部、下背部にも休息を与えることができる。
●3日目:背中、上腕二頭筋、前腕
脚のワークアウトで疲労していた腰や下背部にも十分な休養を与えたので、3日目に背中のワークアウトを行うことは全く問題ないはずだ。脚と背中は大きな部位であるため、ワークアウトスケジュールを組むときは、この2つの部位を同じ日にワークアウトしたり、連続した日にワークアウトするのは避けたほうが賢明だろう。
●4日目:その他
1~3日目でワークアウトしていない部位(腹筋など)のワークアウトを行ってもいいし、有酸素運動だけ行う日にしてもいい。あるいは、休養が必要だと感じる場合はオフ日にするのもいいだろう。
●5日目以降:1日目以降と同じ(2サイクル目)
【超回復を考慮した分割例2】
●1日目:脚
●2日目:胸、肩
●3日目:オフ
●4日目:背中
●5日目:オフ
●6日目:腕、腹筋
●7日目:オフ
前記のようにスケジュールを組むと、特に腕を強化することが可能になる。そして何より、このスケジュールではワークアウト間のオフ日が増えるので、休養が十分に確保されている。そのため、各部位のワークアウトで十分な量をこなすことができる。トレーニング量がこなせるということは、間接的に刺激を受ける部位が増えるということなので、オフ日にはしっかり体を休ませるようにしたい。
【間接的な刺激が得られる種目を加える】
前述した分割例2の場合、腕のワークアウトは6日目で、組み合わせる部位は腹筋のみだ。そこで、背中や胸が間接的に刺激されるような腕の種目を選択肢に入れるといいだろう。これと同様に、4日目のワークアウトは背中だけなので、脚に間接的な刺激が得られる背中の種目を加えてみよう。このように工夫をすることで、対象部位は十分な運動量を確保することができる。しかも、直接的な刺激と間接的な刺激を連続した日に与えるわけではないので、それほどオーバートレーニングに神経質になる必要もないはずだ。間接的な刺激が得られる種目には、具体的にどのようなものが選択できるのかについて紹介しておこう。
■腕の日:主動筋は腕だが、間接的に背中や胸を刺激する種目を加える。たとえば、クロースグリップ・ベンチプレス、ディップス、リバースグリップ・プルダウンなどだ。腕のための種目だが、胸、肩、背中も間接的に刺激される。
■背中の日:主動筋は背中だが、トラップバーを使ってデッドリフトを行うと、下半身にも間接的な刺激が行きわたる。
トラップバーがない場合、あるいはデッドリフトができない場合は、レッグプレスとレッグカールをスーパーセットで行うようにするといい。その場合、12~20レップのハイレップで2セット程度行えば、下半身全体の血流量が増し、間接的な刺激と似たような刺激を下半身全体に得ることができる。
好調時こそ「後退」のタイミング?
各部位に、直接的な刺激を週に1回、間接的な刺激を週に1回与えることができれば、十分に超回復を考慮したトレーニングスケジュールを立てることができるはずだ。継続して筋発達を得るには、トレーニングしすぎを意味するオーバートレーニングも、逆にトレーニングしなさすぎのアンダートレーニングも避けなければならない。筋発達のためには「ちょうどいい塩梅(あんばい)」でトレーニング頻度を決めていく必要があるのだ。では、オーバートレーニングとアンダートレーニングを比較して、どちらのほうがより不利益になるかと言えば、それは当然オーバートレーニングだ。そのため、少しでも疲労が抜けないと感じるうちは無理にトレーニングを行わず、休日にしたほうがまだマシなのである。
しかし、それができないトレーニーが多すぎる。予定外のオフ日を取ることに罪悪感を感じてしまうからだ。そこで皆さんに紹介したいのが「フェーズトレーニング」だ。この方法は、疲弊期に突入してしまう直前に、強度を下げたワークアウトを挟むというアイデアをもとに考えられたものだ。結局のところ、どれだけオフ日をうまく配置したとしても、常に高強度のワークアウトを続けながら、筋発達を継続させるというのはやや現実離れしていると言わざるをえない。そういったことからも「4歩進んで1歩下がる」というやり方のほうが、むしろ筋発達は継続していくと考えられる。このようなトレーニングのやり方は、オーバートレーニングの手前で身体を救ってくれるので、筋発達を継続させるという意味ではより現実的だ。
ちなみに、フェーズトレーニングのフェーズには「期間」という意味がある。目的ごとに期間を設けて組み立てるトレーニングがフェーズトレーニングなのである。ここで紹介するフェーズトレーニングには「後退期」が設けられる。後退期の期間は1週間でもいいが、場合によっては2週間取っても構わない。この後退期の期間中は、どの部位も限界まで追い込まず、さらに用いる重量も5~10kg程度軽いものを使うようにする。その代わりパンプをしっかり得るようにしたい。パンプが得られている限り血流量が増し、対象筋に蓄積された老廃物や不要な物質が速やかに除去され、疲労回復が促進される。つまり、アクティブレスト(積極的休養)の考え方を採用したワークアウトを行うのだ。明らかにオーバートレーニングに陥ってしまった場合を除いて、後退期はトレーニングを休まないようにしたい。そのほうがトレーニング意欲を失うことなく身体を休めることができ、再び本格的なワークアウトを再開する際もスムーズに移行できるはずだ。
後退期のトレーニングは週3回で十分だ。連続してワークアウトしないように月・水・金曜日、あるいは火・木・土曜日に行うようにする。こうすることで筋肉や中枢神経に休養を与えることができ、老廃物の除去も進むはずだ。筋肉だけでなく中枢神経系の疲労も、高強度トレーニングの連続で疲労が溜まってくる。中枢神経の疲労を回復させることは、筋発達を続けていく上で不可欠なのだ。ただ、中枢神経系は筋肉よりも回復が遅い。そのため、後退期は中枢神経系をしっかり回復させるのにも役立つので、この期間はできるだけ「気軽なワークアウト」を心がけるようにしよう。
【後退期の分割例】
●月曜日:脚
●水曜日:胸、肩、上腕三頭筋
●金曜日:背中、上腕二頭筋、前腕
【後退期を組み込むタイミング】
調子がいいときに後退することなど誰も考えないだろう。例えば、ワークアウトのたびに使用重量が伸びているような時期に「後退せよ」と言われても、とても従う気にはなれない。しかし、後退する好機は、むしろ調子の波に乗っているときなのだ。停滞の兆候が見られたときには、もうすでにタイミングを逃している。停滞の兆候が見られてから慌てて後退期をスケジュールに組み込もうとしても、体はすでに疲弊期に突入してしまっているのだ。
理想から言うと、最も調子がいい時期に後退期の週を設けるのがいい。たとえば使用重量の自己記録を更新している時期、あるいは筋量の増加が確実に得られている時期、そういう時こそ後退期を組み込むタイミングと言っていいだろう。調子がいいときに後退するなどあり得ないと思うだろうが、そのような好調の時期はいつまでも続かない。永遠に伸び続けることなどあり得ないのだ。しばらくすれば使用重量や筋量の伸びは間違いなく止まる。そして、そのタイミングで後退期をスケジュールに組み込もうとしても、すでに遅いということを頭に入れておいてほしい。
例えば、先週は150kgで10レップができていたのに、今週はどういうわけか8レップしかできないなど、そういうことはよくある。そういう状況になると、人間の心理として、この不調を何とか乗り切ろうとさらに運動量を増やす方に向かいがちだ。冷静に考えればわかることだが、このタイミングでトレーニングをより多く、よりハードに行おうとするのは逆効果だ。しかも、調子はすでに下がりはじめているわけで、そこから修正しようとしても遅いのである。絶好調の時にこそ、1週間程度の後退期を設けていく。これが継続的な筋発達のための秘訣なのである。
個人差はあるが、目安としては4~6週間の通常ワークアウトを続けたら、1、2週間の後退期を設ける。仮に4~6週間の通常ワークアウトで筋力・筋量の増加が顕著に見られなかったとしても、続く1、2週間の後退期で心身は必ずリフレッシュされる。このようなトレーニングサイクルを利用すれば、オーバートレーニングを避け、ケガを予防し、着実に一歩ずつ進んでいけるはずだ。
執筆者:William Litz カナダのウィニペグで活動する有資格のパーソナルトレーナー。過去10年以上にわたり、フィットネス系雑誌やオンライン雑誌にトレーニング関連の記事を執筆してきた。ボディビルに精通しており、熱狂的なボディビルファンでもある。
提供元・FITNESS LOVE
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