INDEX
- ライトなしの下山を検証
- 冬至の奥武蔵
- ライトなしの下山開始
- 木段と並んで辛い、岩場の下り
- 周りが見えない
- 検証からわかったこと
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日帰り登山の予定が、道に迷って夜になってしまった。そんなとき、無理して下るのと、じっとしているのではどちらがいいのか? 真夜中、ライトなしの下山がどんなものか検証するため、暗闇のなか、丹沢の大倉尾根を下ってみることにした。一応、満月に近い月夜を選んだものの、そんな明かりでどれだけ歩けるのか? 激闘の実録ドキュメント。
ライトなしの下山を検証
しまったと思ったのは、大倉尾根の上部まで登ってきたときだった。今回、ライトなしで登山道を下るにしても、満月近い十三夜、天気予報は晴れということで、月明かりを頼りにそれほど苦労せずに下れるのではないかと思っていた。
しかし、大倉尾根の上部にはガスがかかっており、月が見えたり隠れたりで頼りにできない。こんな状態で暗い森林のなかの登山道を下れるのか? 気持ちは暗くなるばかり。
そもそも、今回の企画の趣旨は、ライトを忘れた日帰り登山で日が暮れてしまったら、その場で明るくなるまで待つのと、無理やり下ってしまうのとどちらがいいか? という検証のため、ライトなしで大倉尾根を下ってみるというものだった。
丹沢の塔ノ岳に続く大倉尾根は、単調な登りが続くことから「バカ尾根」などという人もいるが、個人的には好きな場所だ。これまで、トレイルランニングの練習でも何度登ったかわからない。
また、個人的にアドベンチャーレースに出たりしているので、夜の山を歩いたことがないわけではない。トレイルランニングも少しかじっているので、レースでは夜の登山道を走ったりしたこともある。
しかし、それらはすべてライトを持ってのこと。ライトなしの夜間歩行には、嫌な記憶しかない。
冬至の奥武蔵
5年ほど前、冬至の日に、奥武蔵の棒ノ嶺から金毘羅尾根まで知り合いふたりとトレランに行ったことがある。山はまさかの雪山、ぎりぎりトレランシューズでも進めるが時間がかかる。
途中ショートカットしたものの、日暮れまでに下山できるかどうか心もとない。念のため確かめてみると、ふたりともヘッドランプを持っていなかった。「これはまずい!」と、雪でツルツル滑りながら下山を急ぐ。
気分はほとんど『千と千尋の神隠し』で陽が沈む前にセンを帰そうとするハクの気分。このときは間一髪、明るいうちになんとか下山することができた。
そこまで焦ったのには訳がある。さらに昔、ライトも持たずに暗闇の登山道を下った苦い経験があるからだ。
中部の大学山岳部を卒業して数年後、同期の山岳部員Fを誘って奥多摩のつづら岩に岩登りをしに行った。当時は、関東の岩を甘く見ていた。ルートを登るのに手間取り、撤収していたときにはすでに暗くなり始めていた。
案の定、下山途中で日が暮れて真っ暗になったのだが、ふたりともライトを持っていなかった。その日は月明かりもなく、日が暮れると本当に真っ暗。自分の手の先すら見えない。
しかし、クルマがある登山口まで降りなければならない。仕方なく、しゃがみこんで文字どおり手探りで下山を開始した。下山に要した時間はコースタイムの4倍以上、汗まみれになって登山口にたどり着いた。
そんな経験をして以後、たとえ日帰りや半日の登山であっても、必ずヘッドランプは持参するようにしている。
ライトなしの下山開始
気がつけば、十三夜の夜、ガスガスの塔ノ岳頂上に立っている自分がいた。ここから登山口の大倉まで、十三夜の月だけを頼りに下れるのかどうか、それが記事のテーマだ。
男ひとりでは絵にならないということで、ホグロフス・マーケティング担当の塚崎奈々恵さんが同行してくれることになった。「ウフフ」と笑う笑い声が素敵な人で、それだけが心の支えか。
さて、塔ノ岳頂上で形ばかりの記念撮影をして、下り始める。頂上付近は一応森林限界より上で月の明かりもなんとなく届いているため、登山道は確認できる。頂上直下は、普通の登山道と木道、木段の混じった道。木道は白い木がはっきりと見えるため、暗くても歩きやすい。
それに対し、問題なのは木段。大倉尾根を歩いたことがある人ならわかるだろうが、この尾根は木段が異常に多い。明るい昼間であればただ単調さに耐えればいいのだが、暗闇となるとこの木段の多さが致命的に辛い。
通常の段の縁に木がある木段の場合、月明かりだけだと、白い木は見えるものの、その先の段差がどれだけあるのかわからない。幸いトレッキングポールを持っていたので、段差の先にポールを突いて、高さを確認して足を進める。
また、すべてが木でできた木段、これも結構難物だった。暗くなると距離感がわからない。木段は普通2枚の木の板が1セットになって階段状になっているのだが、距離感が失われてしまうと、木の板は見えても、どの木2枚がセットになっているのかがわからない。
木段の木が白ければまだおぼろげに見えるのだが、それが暗い色だと視覚で階段を認識するのは不可能に近くなってくる。場所によっては、階段の板に沿って足を前方に滑らせ、板の切れ目を足の感触で確認して下の段に足を出す、なんていう下り方も強いられた。
木段と並んで辛い、岩場の下り
大倉尾根特有の木段下りも辛いのだが、それと並んで辛いのが、岩が多い急な下りの場面。なんといっても、暗いとコース自体の把握がままならないので、まずはどのコースを下ったらいちばん安全なのかの判断ができない。
それなりに下るルートを決めたとしても、白い岩はなんとなくぼんやり見えるがそれ以外はほとんどなにも見えない。下りの傾斜もよくわからないので、どこに足を置いたらいいものやら迷ってしまう。
そして多分、これがいちばん大きなリスクになると思うのだが、よく見えない場所に足を置くと、そこに体重をかけていいのかわからず躊躇するため、足への荷重が中途半端な状態になる時間が長くなる。
そのため、下りで使う足の筋肉への負荷が、通常の下りに比べてはるかに大きくなる。とくに大倉尾根のような「バカ尾根」の場合、ずっと下りが続くので、この筋肉への過剰な負荷は想像以上に大きいものになる。
実際、下山後大倉で念入りにストレッチをしたにもかかわらず、取材後の3日間ほどは階段をまともに下れない目にひさびさに遭った。結局下りにかかった時間は4時間以上、コースタイムの倍だった。
周りが見えない
それから特記すべきは、暗闇で下るときの視野狭窄だろう。昼間ならなんでもない下りでも、暗闇になるとまず次の一歩をどこに置くか、ということに神経を集中せざるを得ない。
下りの一歩一歩すべてがそのような状況になるので、足元以外の周囲に対する注意は昼間に比べてはるかに疎かになる。
今回の大倉尾根下降の例でいうならば、頂上から下ってしばらくすると大倉尾根と鍋割山への分岐があるのだが、この分岐にまるで気が付かなかった。また、登山道には山小屋がいくつかあるのだが、下りの際、駒止茶屋を通過したのにも気が付かなかった。
一度は西側に下りる登山道に入ってしまったりもした。何度も通った登山道でさえこうなのだから、初めての登山道で夜間にライトなしで行動すれば、道に迷うリスクはかなり高いといわざるをえない。
今回の検証で、役に立ったのがトレッキングポールだ。暗闇のなかでの下山となると文字どおり「転ばぬ先の杖」になる。
たとえば、木段はぼんやり見えているのだがその先の落差はどのくらいあるのかわからない、というようなとき、ポールを突けば落差のだいたいの見当がつく。急な岩場の下りでも、ポールがあればその先が少なくとも岩か土かの判断はできる。
検証からわかったこと
今回、ライトなしで下ってわかったこと。たとえ月明かりがあったとしても、木が茂っている登山道を下るのはかなり困難だ、ということ。これは足元が見えないこともあるし、なにより時間がかかり(コースタイムの2倍以上)体力を消耗する。足元が見えないので転倒によるリスクも大きくなる。
また、足元に注意を集中するあまり周囲に対する目配りが疎かになり、誤ったルートに入ってしまうリスクもかなり高くなる。そんなことから考えると、ライトを持たずに山で日が暮れてしまった場合、下山するのは得策とは思えない。
気温が低く、そのまま夜になると低体温症になってしまうような場合は、気温が高くなるところまで下るのは適切な判断かもしれない。また、あと数百メートル下れば人家がある、というような場合には、多少無理をしても下山してしまったほうが安全を確保できる確率が高い。
しかし、コースタイムで数時間歩かなければ下界に着かないような場所で日が暮れてしまったら、風や雨をしのげる場所を探して明るくなるまで待機し、夜明けを待って下山したほうがリスクは少ない。これが今回暗闇の大倉尾根を下って得た結論だ。
スマホのアプリも実用範囲内?
ライトを忘れてしまった際、スマホのライトはどのくらい有用なのだろうか。今回の大倉尾根下降でひとつのライトアプリを試してみた。見え具合は以下のとおり。
上の写真がスマホのライト。スマホのライトでも十分に道は見える。ただし短時間での使用でも、バッテリーの残量はみるみる減った。省エネのものや、もっと高照度のものも探してみる価値があるだろう。
こちらはヘッドランプをスポットモードで使用したもの(下山時は使用しなかったが念のため携行した)。
スマホのライトだとフラットに光が回るため、細かなポイントに光を当てたい場合はやはりヘッドランプに軍配が上がるといえる。
スマホのライトも結果的には有用といえるが、バッテリーの残量によって使用時間が読めなかったり、いざというときに救助を要請したりするためにも、あてにせずライトを携行したい。
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CREDIT :
文◉堀内一秀 Text by Kazuhide Horiuchi
写真◉飯坂 大 Photo by Dai Iizaka
取材期間:2018年7月26日
PEAKS 編集部
装備を揃え、知識を貪り、実体験し、自分を高める。山にハマる若者や、熟年層に注目のギアやウエアも取り上げ、山との出会いによろこびを感じてもらうためのメディア。
提供元・FUNQ/PEAKS
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