ロボットを人間に近づけるための1つの条件は、触覚を与えることです。
イギリス・ブリストル大学(University of Bristol)工学部数学科に所属するネイサン・レポーラ氏ら研究チームは、人間の皮膚構造を再現したロボット指を開発しました。
そしてこの指は、人間と同じような触覚信号を生成できるのだとか。
これはロボットに感覚を与えるという研究ですが、結果は極めて本物に近い人工皮膚の開発にも役立つだろうと考えられます。
研究の詳細は、2022年4月6日付の科学誌『Journal of the Royal Society Interface』に掲載された2つの論文に記されています。
目次
人間の複雑な皮膚構造が触覚を生み出す
人間のような触覚をロボットに与えるのは、簡単なことではありません。
そもそも多くの人は、触覚を説明すること自体、難しいと感じるでしょう。
触覚は、物をつかんだりざらざらとした荒い表面をなぞったりするときに、脳で感じる独特の感覚です。
熱さや痛みといった痛覚とは異なり、「何かを触っている感覚」を生み出すものです。
では、この説明するのも難しい曖昧な感覚「触覚」は、どうすればロボットに与えることができるでしょうか?
答えは、人間の「触覚を生み出す構造」を複製し、そのままロボットに内蔵すればよいのです。
では、どの部分を模倣すれば、触覚を再現できるのでしょうか?
研究者たちが注目してきたのは、「真皮乳頭(しんぴにゅうとう)層」と呼ばれる部分です。
私たちの皮膚は、外側の「表皮」と内側の「真皮」から成り立っています。
そして真皮と表皮の境目は凹凸上に波打っており、この部分が「真皮乳頭層」と呼ばれています。
これまでの研究では、この真皮乳頭層には感覚神経が備わっており、この部分を通して触覚信号が脳に伝わると分かっています。
つまり皮膚の内側にある無数の突出が、「触っている感覚」を敏感に受け取り、複雑な信号として脳に送っていたのです。
そこで研究チームは、この「真皮乳頭層」を模倣することで、人間のような触覚を再現しようとしました。
皮膚の凹凸「真皮乳頭層」を3Dプリントで再現したロボット指
研究チームは、表皮と真皮の境目にある突出部「真皮乳頭層」とその構造を模倣しました。
人工皮膚の裏側に、3Dプリントしたピン状の「疑似・乳頭層」を作ったのです。
下の画像は3Dプリントされた指先の皮膚であり、たくさんの乳頭が付いているのが分かりますね。
ちなみにこの3Dプリント乳頭層は、生物学の研究で利用されるような高度な3Dプリンタで作成されました。
柔らかい材料と硬い材料を混ぜ合わせることで、人間らしい触覚を生み出せるようにしたのです。
またチームは、この人工皮膚の指先をもつロボットアームも開発しました。
そしてロボットアームで触覚テストを行い、人工神経が示すデータを収集。
その結果、今回記録できた人工神経のデータと、「人間の真皮乳頭層が示す神経データ」のパターンが驚くほど一致しました。
つまり、人間の皮膚構造を模倣した人工皮膚は、人間に近い触覚の神経信号を生み出せると分かったのです。
しかし今回の実験では、人間ほど敏感でない部分もあったようです。
研究チームは人工皮膚が本物の皮膚よりも分厚いことが原因だと考えています。
そのため現在は、より薄い人工皮膚を3Dプリントする方法を探っているとのこと。
見た目だけでなく内部構造まで模倣した人工皮膚。将来的には触覚だけでなく他の感覚も人間と同じレベルまで引き上げられるかもしれませんね。
提供元・ナゾロジー
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