光が全く届かない暗闇では、赤外線カメラを使って人物や景色を認識できます。
しかし従来の赤外線カメラで得られる画像には色がなく白黒でした。
そして最近、アメリカ・カリフォルニア大学アーバイン校(University of California, Irvine)に所属するアンドリュー・ブラウン氏ら研究チームは、AIを利用して赤外線カメラの白黒画像をフルカラー化することに成功。
現在、人物画像であれば、通常のフルカラー写真と同じレベルにまで再現できています。
研究の詳細は、2022年4月6日付の学術誌『PLOS ONE』に掲載されました。
AI学習によって暗闇で撮った画像がフルカラーに!
人間は電磁波のうち380~760nmの波長しか目で見ることができません。
この範囲の波長は「可視光線」と呼ばれており、可視光線がない場所は完全な暗闇となってしまいます。
では暗闇の中でも、周囲を認識するにはどうすればよいでしょうか?
ここで役立つのが赤外線カメラです。
赤外線はすべての物体から、その温度に応じた量が放射されています。
そのため赤外線自体は人間の目に見えないものの、赤外線量の違いを測ることで可視化できます。
しかしその性質上、赤外線カメラの画像は白黒でしか表現できません。
そこで研究チームは、AIを用いて赤外線カメラの画像をフルカラー化することにしました。
まずチームは、さまざまな人物の「フルカラー顔写真」140枚を用意。
次に、それぞれの写真に対応する「赤外線カメラの白黒画像」も準備しました。
そしてそれら2種類の画像をAIに比較させ、「赤外線カメラによる見え方」と「実際の色の付き方(可視光線による見え方)」の関連性を学習させました。
その結果、赤外線カメラの白黒画像から、フルカラー版を予測して着色することが可能に。
実際、「AIでフルカラー化した人物画像」と「元のフルカラー写真」を比べても、大きな違いはありませんでした。
とはいえチームは、「AIによる色の選択は、“証拠に基づいた判断結果”ではなく、“最善の推測”である」と説明しています。
また、「今回は人物の顔画像を学習させただけなので、他の種類の画像で試してもうまくいかないだろう」とも付け加えました。
さらに現段階では、AIに学習させたとしても、イレギュラーな配色を予測することは難しいでしょう。
例えば、果物の画像を学習させた場合、一般的なパターンから「バナナは黄色」だと予測しますが、「未成熟な緑バナナ」には騙されてしまうのです。
総合的に考えると、今回の技術がすぐに実用化されることはないでしょう。
それでも近い将来、完全な暗闇でもフルカラー再現する暗視ゴーグルが登場するかもしれないのです。
参考文献
Full-color night vision is almost a reality after a deep learning breakthrough
Deep learning to enable color vision in the dark
提供元・ナゾロジー
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