『伊予風土記』や『豊後風土記』といった書物に記録が残るほど、温泉の湧く地として知られていた別府。しかし、現在のように温泉を観光資源として活用できたのは、明治・昭和ごろからだったという。
今回は、泉質の種類や源泉数、湧出量で日本一を誇る別府エリアの中でも、至る所で湯煙が立ち登る鉄輪を訪ねた。地獄蒸しをはじめとするグルメも魅力的だが、温泉にフォーカスして鉄輪温泉の魅力を紹介する。
■4月1日は「別府八湯温泉まつり」

2022年4月1日(金)、毎年この時期に開催される「別府八湯温泉まつり」のメインイベントの一つ「扇山火祭り」が執り行われた。山で休息をとっている温泉の神様に感謝を伝えようと始まった火祭りは、今年で46回目の実施となる。
午前中に八幡朝見神社で御神火に関する神事が行われ、扇山で火入れが始まったのは18時のこと。別府市内から見える斜面の端から燃え、山を撫でるように赤い炎の線がゆっくりと動いてゆく。

扇山火祭りは「京都五山送り火」ほど知られた祭りではないかもしれない。しかし、こうした地域ならではの祭りをゆっくりと眺めていると、都会の喧騒を忘れ、少しずつ旅情が湧いてくる。これから始まる鉄輪での湯巡りで、幸先の良いスタートとも言えるだろう。
■別府・鉄輪で温泉を訪ね歩く
火祭りで温泉の神様に感謝を捧げ、いよいよ温泉巡りへと出発。鉄輪エリアは至る所で湯気が立ち上るほど温泉が湧き出ている。温泉を活用した観光スポットなら「地獄めぐり」が有名だが、せっかく別府にきたのであれば温泉を心ゆくまで満喫したい。
ここでは鉄輪温泉の中で、実際に訪れた温泉を紹介していこう。
すじ湯温泉

初めに訪ねたのは「すじ湯温泉」。入口を開けると受付はなく、入湯料100円を入れる箱だけが置かれている。そして、男湯へと足を踏み入れると、すでに温泉に浸かっている地元の方がいた。
どうやら、すじ湯温泉の向かいにあるコワーキングスペース「a side-満寿屋-」でリモートワークをしており、いまは息抜きに温泉に入っていると言う。「休憩時間に温泉なんて……」と羨ましく思う気持ちを抑えつつ、掛け湯をして入浴。九州といっても春はまだ肌寒かったが、少し熱めの湯が体をじんわりと温めてくれる。ここは塩化物泉なので、湯冷めしにくいそうだ。
ちなみに、別府の温泉にはシャンプーやボディーソープなどを置いているところはほとんどない。あくまでも「湯に浸かること」をメインに考えておこう。
熱の湯温泉

続いて、すじ湯温泉から徒歩3分ほどの場所にある「熱の湯温泉」へ。こちらは地元の人から観光客まで多くの利用客で賑わっている。入湯料を払おうと財布を取り出したが、ここは無料で温泉が楽しめると知って衝撃を受けた。
また地元の方に話を聞くと、熱の湯はタダで入れる温泉ではあるが、周辺の住民が交代で管理・手入れをしているのだとか。温泉の神様だけでなく、気持ちよく温泉を楽しめる環境を整えてくれている人たちにも感謝したい。
谷の湯

熱の湯温泉をあとにし、次に向かったのは天保時代から続く温泉「谷の湯」だ。ここの入湯料は150円だが、支払い方法が面白かった。なんと、民家の窓から伸びるパイプにお金を入れるのだ。パイプのそばにはお釣りの箱がちょこんと置かれており、かわいらしさも感じさせる。
しかし、男湯に入ると目を疑う光景があった。湯船を見下ろすように不動明王の像が鎮座しているのである。不動明王に見られながらの入浴は、なぜか緊張感も湧いてくるが、熱すぎない湯温で心地良い入浴を満喫できた。
鉄輪むし湯

最後に訪れた「鉄輪むし湯」は、これまた違った趣を楽しめる。これまでに紹介した温泉とは異なり、どちらかと言うとサウナや岩盤浴に近い。初めての方は困惑するかもしれないが、鉄輪むし湯は次のように進んでいく。
- 券売機で入浴料700円を支払う(レンタル浴衣は220円)
- 風呂場で下半身を洗う
- 脱衣所で浴衣を着て蒸し風呂(石室)に入る
- 約10分後、蒸し風呂から出て温泉に浸かる
石室の中には「石菖(せきしょう)」と呼ばれる薬草が敷き詰められており、その上で10分ほど寝転ぶ。100℃近い蒸気に蒸されていたため、石室から出るころには汗だくになっていた。蒸し風呂のあとは温泉に浸かり、ぼんやりとした頭が徐々に現実に戻ってくるかのような感覚を覚える。
これまでサウナや岩盤浴は利用したことがあったが、温泉の蒸気に蒸されて汗を大量にかくとは……。まさに別府でしか味わえないひと時と言えるだろう。
●まとめ
別府には温泉とともに紡いできた歴史があり、それは今なお文化としても息づいている。今回の記事で紹介した温泉のほかにも、鉱泥温泉や明礬温泉など数多くの湯浴みが楽しめる。
今後、別府旅行を考えている人は、自分の好みにあった湯を探しに市内を散策してみても良いだろう。
男の隠れ家デジタル編集部
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提供元・男の隠れ家デジタル
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