イギリスの古生物学研究チームが、驚くべき恐竜の化石を発表しました。

米北部ノースダコタ州にある発掘地「タニス(Tanis)」で見つかった脚の化石は、約6600万年前に隕石が落下した、まさにその日に死んだ恐竜のものだという。

これは、隕石衝突によって恐竜が絶滅したことを直接的に実証する、史上初の物的証拠となる可能性があります。

また、タニスからは他にも、隕石落下の衝撃を物語る数多くの化石群が出土しているとのこと。

現地での発掘調査を追った3年間のドキュメンタリーが、今月15日に、デイビッド・アッテンボロー(David Attenborough)氏がナレーターを務めるBBCの番組で放送される予定です。

目次
隕石落下の衝撃をとどめた「タニス」の化石群
隕石で即死した恐竜の「初の物的証拠」か?

隕石落下の衝撃をとどめた「タニス」の化石群

史上初、「隕石落下の衝撃」で死んだ恐竜の化石を発見か
(画像=「タニス」を上空から見た様子 / Credit: BBC News/youtube(2022)、『ナゾロジー』より引用)

発掘地としてのタニス(Tanis)は、2008年に、カナダとの国境をなす米ノースダコタ州で発見されました。

そこからは、隕石落下直後の衝撃を物語る混沌とした化石群が出土しています。

木の杭が突き刺さった亀、トリケラトプスの皮膚、哺乳類の遺体とその巣穴、卵の中の翼竜の胚、衝突時に出た破片など、枚挙にいとまがありません。

発掘を率いたマンチェスター大学(University of Manchester)の大学院生、ロバート・デパルマ(Robert DePalma)氏は「タニスでは、衝突直後の一瞬一瞬を伝える多くの情報が得られており、まるで映画の中の出来事を見ているようです」と話します。

史上初、「隕石落下の衝撃」で死んだ恐竜の化石を発見か
(画像=メキシコ湾に落下した隕石 / Credit: BBC News/youtube(2022)、『ナゾロジー』より引用)

今から遡ること6600万年前、ユカタン半島沖のメキシコ湾に直径約12kmの隕石が落下しました。

その衝撃は凄まじく、地上の粉塵を巻き上げ、地球規模の気候変動を起こし、動植物の75%を絶滅させたと言われています。

タニスは落下地点から約3000キロ離れているにもかかわらず、甚大な被害を受けました。

史上初、「隕石落下の衝撃」で死んだ恐竜の化石を発見か
(画像=今回の発掘地タニスと隕石落下地点のチクシュルーブ・クレーターの位置関係 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より引用)

衝突により大陸プレートが激しく揺さぶられ、海や川、湖など、あらゆる水域に巨大な津波を引き起こしたのです。

史上初、「隕石落下の衝撃」で死んだ恐竜の化石を発見か
(画像=大陸プレートの激しい揺れで、水域に津波が押し寄せる / Credit: BBC News/youtube(2022)、『ナゾロジー』より引用)

これは恐竜も動植物も見境なく飲み込んで、死に至らしめました。

そのため、タニスで見つかった化石群は、陸や水中の生物、植物が入り混じっています。

研究チームがまず注目したのは、チョウザメのエラに詰まったビーズ状の塵でした。

これは、衝突によって巻き上げられた溶岩が空中で球状になり、その後、再び地面に落ちてきたものです。

チョウザメは水中に落ちてきた塵を水とともに飲み込んだと見られます。

史上初、「隕石落下の衝撃」で死んだ恐竜の化石を発見か
(画像=ビーズ状の球体 / Credit: BBC News/youtube(2022)、『ナゾロジー』より引用)

また、木の樹脂から回収された2つの粒子には、地球外から飛来したことを示す小さな含有物が認められました。

デパルマ氏の指導教官であるフィル・マニング(Phil Manning)教授は「その物質の化学組成を分析したところ、すべての化学的データが、恐竜を絶滅させた隕石の破片であることを示していました」と述べています。

そして一番の大物は、ウロコ状の皮膚を残している恐竜の脚の化石です。

これを次に見ていきましょう。

隕石で即死した恐竜の「初の物的証拠」か?

史上初、「隕石落下の衝撃」で死んだ恐竜の化石を発見か
(画像=テスケロサウルスの脚の化石 / Credit: BBC News/youtube(2022)、『ナゾロジー』より引用)

ロンドン自然史博物館(NHM)の古生物学者、ポール・バレット(Paul Barrett)氏は、この化石について、「テスケロサウルス(Thescelosaurus)の脚」と指摘します。

テスケロサウルスは、後期白亜紀のマーストリヒチアン期(約7210万〜6600万年前)に北米に生息した草食恐竜です。

全長3〜4メートルで、川の近くに暮らしていたことがわかっています。

バレット氏は「本種はこれまで、どんな皮膚をしていたか不明でしたが、この化石によりトカゲのようなウロコ状であることが決定的となった」と話します。

史上初、「隕石落下の衝撃」で死んだ恐竜の化石を発見か
(画像=津波に飲み込まれたテスケロサウルスのイメージ / Credit: BBC News/youtube(2022)、『ナゾロジー』より引用)

調査の結果、この脚は何らかの衝撃で一瞬の内に切り取られたことが示されました。

脚はいたって健康な状態で、病気や感染症の痕跡もなく、噛み傷や欠損した部分もありません。

つまり、このテスケロサウルスは、隕石衝突の衝撃によって即死した可能性が高いのです。

これまで、隕石が恐竜を絶滅させたことを示す直接の証拠はなく、これが史上初の物的証拠となるかもしれません。

もしそうだとすれば、これは古生物学史に残る大発見となります。

史上初、「隕石落下の衝撃」で死んだ恐竜の化石を発見か
(画像=水辺で餌を探すテスケロサウルスのイメージ / Credit: BBC News/youtube(2022)、『ナゾロジー』より引用)

一方で、エディンバラ大学(University of Edinburgh)の古生物学者であるスティーブ・ブルサット(Steve Brusatte)氏は「査読された論文が発表されるまでは懐疑的である」という。

「たとえば、隕石の衝撃により、それ以前に死んでいた恐竜が地中から掘り返され、同時代に死んだ可能性も考えられる」と見解を述べています。

研究チームは、化石の綿密な調査を終えたのち、いくつかの論文として発表する予定とのこと。

ただその前に、BBC Oneにて4月15日、「Dinosaurs: The Final Day with Sir David Attenborough」のタイトルで、タニスでの発掘を追った3年間のドキュメンタリーが放送される予定です。


参考文献

Tanis: Fossil of dinosaur killed in asteroid strike found, scientists claim

This fossil may belong to a dinosaur that died on the day of the asteroid impact


提供元・ナゾロジー

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