自由自在に動くスライムといえば、1990年代のコメディ映画「フラバー」を連想する人も多いでしょう。
フィルム内の「スライムの活躍」は、当時空想にすぎませんでしたが、20年以上かけて徐々に実現しています。
最近、香港中文大学(CUHK)機械・自動工学科に所属するリ・ジャン氏ら研究チームが、磁力で動く「磁気スライム」を開発したのです。
形を変えて隙間に入り込めるだけでなく、物をつかんで移動させることも可能とのこと。
研究の詳細は、2022年3月25日付の科学誌『Advanced Functional Materials』に掲載されました。
「磁気スライム」は変形して有害物を飲み込む
新しく開発された「磁気スライム」は、磁性粒子を含んだスライムです。
そのため磁石によってスライムを移動させたり変形させたりできます。
しかもそれらの動きは単純なものではありません。
O型やC型になったり、物体をつかんだりできるのです。
また非常に狭い隙間にも体を変形させて侵入することが可能。
さまざまな場面で活躍するスライムなのです。
では、どのようにして「自由自在に働く」ことが可能になったのでしょうか?
磁気スライムの秘密は、その材料にあります。
このスライムは、水に溶ける樹脂「ポリビニルアルコール」、洗剤やスライムに利用される「ホウ砂」、非常に強い磁力をもつ「ネオジム磁石」の粒子を混ぜ合わせることで作られています。
これにより外部磁石で操作でき、しかも「ある時は固体のように、また別の時は液体のように振る舞う」という性質を獲得しました。
後半の性質は、水とコーンスターチを混ぜて作れる「非ニュートン流体」の性質です。
「非ニュートン流体」は聞き慣れない用語ですが、これはゆっくりと力を加えると液体のように作用しますが、素早く力を加えると固体のように硬くなるというものです。
磁気スライムは、この性質を磁力で使い分けます。
ある時は硬くなって物をつかみ、またある時は液体のように柔らかく形を変えるのですね。
研究チームは、将来的に磁気スライムが医療現場で役立つと考えています。
例えば、消化器官にスライムを潜り込ませ、飲み込んでしまった小型電池を包んで有毒な物質が漏れ出さないよう隔離できるかもしれません。
とはいえ、現在この磁気スライム内の磁性粒子は人体に有毒なため、実用化するにはいくらか改良が必要でしょう。
あらゆる分野で活躍する磁気スライム。今後の進展に期待できます。
参考文献
This slimy turd-like magnetic robot could grab things inside your body
‘Magnetic turd’: scientists invent moving slime that could be used in human digestive systems
元論文
Reconfigurable Magnetic Slime Robot: Deformation, Adaptability, and Multifunction
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功