英・ケンブリッジ大学図書館(Cambridge University Library)は昨日、約21年前に紛失していたチャールズ・ダーウィン(Charles Darwin、1809〜1882)の貴重な研究ノート2冊が、このほど匿名で返却されたと発表しました。

ノートには、ダーウィンがビーグル号の航海から戻ってきた1837年頃に書いたとされる「生命の樹」のスケッチや、のちに『種の起源(On the Origin of Species)』(1859)で発表する「進化論」のアイデアが記されています。

同館司書のジェシカ・ガードナー(Jessica Gardner)氏によると、「ノートの価値はおそらく、数百万ポンド(数億円)に達する」という。

現在もノートを持ち出した犯人、返却した人物は不明のままですが、このノートをめぐる騒動には、一体どんな経緯があったのでしょうか。

目次
紛失から21年後、謎の人物「X」からの返却
ノートには「生命の樹」や「進化論」のアイデアも

紛失から21年後、謎の人物「X」からの返却

21年前に盗まれた”ダーウィンの2冊の研究ノート”が「X」を名乗る人物から返却される
(画像=変換された2冊のノート / Credit: Cambridge University Library、『ナゾロジー』より 引用)

2冊のノートは2000年11月、特別所蔵品の写真撮影のために重要書庫から取り出され、カメラに収められました。

その後、2冊は保管箱に戻されたのですが、翌2001年1月の定期点検で、本来の保管場所にないことが判明。

しかしその時点では、図書館員らも別の場所に紛れ込んだと判断し、自分たちで捜索を続けていたという。

ところが、同館には本や地図など、合わせて1000万点を超える膨大な数の書物が保管されており、点検には最大で5年かかると見られていました。

結局、ノートは見つからず、館外に盗み出された可能性が高いとし、2020年11月24日、正式に警察に届け出ています。

21年前に盗まれた”ダーウィンの2冊の研究ノート”が「X」を名乗る人物から返却される
(画像=ピンクのギフトバッグに入れられていた / Credit: Cambridge University Library、『ナゾロジー』より 引用)

捜索にはケンブリッジ警察およびインターピールが参加し、情報提供を呼びかけ。

このニュースは世界中でシェアされ、ソーシャルメディア等を通じて、何十万人もの人々に知れわたりました。

そして、盗難の公表から約15カ月後の2022年3月9日、2冊のノートは突然、何者かによって返却されたのです。

ノートは、ピンク色のギフトバッグに入った状態で、17階建ての図書館の4階にある、司書室外の共有スペースに置かれていたという。

ノートの入った封筒には、キリスト教の復活祭「イースター」にちなみ、匿名でこう印字されていました。

Librarian
Happy Easter
X

司書の方へ
ハッピーイースター
Xより

21年前に盗まれた”ダーウィンの2冊の研究ノート”が「X」を名乗る人物から返却される
(画像=謎の人物「X」からのメッセージ / Credit: Cambridge University Library、『ナゾロジー』より 引用)

ノートは透明のクリングフィルムで厳重に包装された上で、青い箱に納められていました。

点検の結果、ノートの状態は非常に良好で、紛失の間に傷つけられたり、損傷した痕跡もなかったようです。

ただ、ノートの盗難と返却についての捜査は、現在も続けられています。

では、盗まれたダーウィンのノートには、どんなアイデアが記されていたのでしょうか?

ノートには「生命の樹」や「進化論」のアイデアも

21年前に盗まれた”ダーウィンの2冊の研究ノート”が「X」を名乗る人物から返却される
(画像=英の自然科学者チャールズ・ダーウィン(1809〜1882) / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

ダーウィンは1837年、イギリス海軍の測量船ビーグル号での航海から帰還した後、この2冊のノートに大量の書き込みをしました。

「生命の樹」のスケッチもその一つです。(下の画像を参照)

”I think(私が思うに)”で始まるそのページには、①という数字から枝分かれたした系統樹が描かれています。

この①は、ある生物の共通祖先を示し、そこから進化の枝分かれを繰り返す中で、さまざまな種が生み出されるプロセスを表現しています。

枝の先がT字になっているものが現生種で、それ以外は絶滅した系統とのことです。

21年前に盗まれた”ダーウィンの2冊の研究ノート”が「X」を名乗る人物から返却される
(画像=「生命の樹」のスケッチが記されたページ / Credit: Cambridge University Library、『ナゾロジー』より 引用)

また別のノートには、革新的な「進化論」の可能性を示すアイデアも書き込まれていました。

このアイデアを発展させたものが、彼の名を世に知らしめた1859年発表の『種の起源』へとつながっていきます。

担当司書のガードナー氏は「ノートが無事に戻ったことにとても安堵している」と話します。

「はがきサイズの小さなノートですが、科学史に多大な影響を与えた世界有数のコレクションであることは、いくら強調してもし過ぎることはないでしょう」

21年前に盗まれた”ダーウィンの2冊の研究ノート”が「X」を名乗る人物から返却される
(画像=クリングフィルムで厳重に包装されていた / Credit: Cambridge University Library、『ナゾロジー』より 引用)

まとめ

ケンブリッジ大学図書館は、このノートの人気の高さと、世界的な捜査協力に感謝し、今年7月9日から始まる無料の展覧会「Darwin in Conversation」の一部として、ノートを展示する予定です。

この展覧会は、ダーウィンが生前に書いた約1万5000通の手紙をもとに企画されました。

その大部分は、同館に収蔵されている世界最大のダーウィン関連資料のアーカイブに収められています。

7月の展示後は、2023年に米ニューヨーク公共図書館でも開催される予定です。


参考文献
Missing Darwin notebooks returned to Cambridge University Library

20 years after they were stolen, Charles Darwin’s notebooks have been anonymously returned to Cambridge University


提供元・ナゾロジー

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