2019年に初めてトップ3に入り、昨年11月29日にはゴールドジムJAPAN CUPで優勝を果たした加藤直之選手。そして迎えた勝負の2021年、加藤選手は今、新たな心境で今シーズンに臨んでいる。(IRONMAN2021年10月号より)
――2020年11月はジャパンカップに出場して優勝されました。
加藤 試合の間隔が空くと、試合勘というものが鈍ってきてしまうんです。ジャパンカップに出たことで、試合勘を維持した状態で今年につなげることができました。また、試合に出るたびにいろんな発見があるもので、ジャパンカップでも最終調整の塩分摂取量などで新たな発見がありました。そうした経験は今後の大きな財産になってくると思います。
──トレーニングに関してはいかがでしょう。
加藤 大きく変えた部分はありません。分割は「胸・腹」「脚前メイン」「脚後ろメイン・内転筋」「背中ロウ系」「背中ラット系」「肩」「腕・腹」で、これを1週間で回します。このルーティンで内容をアップデートしながら2、3年ほど継続しています。仕事、家庭とのバランスを考え、部位を細分化することで1回のトレーニングを1時間ほどにして集中できる内容にしています。
──19年の日本選手権後のインタビューでは、その7分割の中でそれぞれ種目を「筋力系」「破壊型」「パンプ系」に分けて行っているとおっしゃっていました。
加藤 そこも変えていません。高重量を扱うBIG3、もしくはそれに準ずる種目が「筋力系」、張力と重量で追い込む種目が「破壊系」、加圧トレーニングRが「パンプ系」の種目になります。いかにして短時間でエネルギーを使い切ることができるかを考えてトレーニングをしています。
──今シーズンに向けて強化してきた部位は?
加藤 この歳(40歳)とトレーニング歴を考えると圧倒的なバルクアップは望めないかもしれませんが、明らかに年々筋密度が増し、筋の輪郭がハッキリとしてきています。よって特定の部位を強化するというよりも、全体的な完成度を高めることを考えています。
――その「全体的な完成度」とは、どういったものなのでしょうか。
加藤 抽象的な表現になりますが、親からいただいたこの骨格に合う、最もすごい身体はどういったものなのか。何かひとつに特化しているわけではなく、バルクがあり、絞りもすごい、全体的なラインも美しい。どの角度から見ても、どのポーズを取っても芸術性を成している。それを自分の骨格に合った形で追求し、それを体現したい、といったところでしょうか。
――減量中の食事についてはいかがでしょうか。
加藤 軽くて持ち運べて腐りにくいもの、ということで日中はオーツを食べています。軽くて、しかも1スクープ5g で摂取量も計算しやすいんです。
――それをどのようにして食べているのですか?
加藤 スプーンでそのまま食べています。
――そのまま!?
加藤 私はそのままで十分食べられます。オーツはとても良い食材です。持ち運びに便利で、日持ちしますし、栄養価も高い。以前は玄米とかさつまいもとかが多かったんですが、私が感じる他の食材との決定的な違いは脂質の量です。オーツには食物繊維やビタミンB群が豊富なだけではなく、ちょうどいい量の脂質が含まれています。休日などはさつまいもや玄米も食べます。
──PFCバランスでいうと、脂質の摂取量はどれくらいなのですか。
加藤 私の計算上ですが、例年は10%弱~15%弱ほどで、今期は1日平均で15%弱~20%弱くらい摂れています。あくまでも私の感覚ですが、脂質の摂取量が増えたことで、関節が滑らかに動いているような感覚があります。減量が進んでいくとどうしても関節がギシギシしてくるのですが、今年はそういった感覚があまりありません。また、食物繊維もしっかりと摂れているので腸内環境が良くなった実感もあります。「脳腸相関」という言葉がありますが、以前よりは物事に対し落ち着いて対応できるようになり、そのことでストレスも軽減できているような気がします。
――日本選手権の約1ヵ月前の9月11日には日本クラス別選手権に出場します。
加藤 何でも“旬”があります。それぞれ個体差はありますが、私のボディビルの旬は今現在だと思っています。しかし、現実的には老化のスイッチは年齢を追うごとにどんどん押されています。なので、今出られる大会があれば出ておきたいんです。
――衰えというものを感じることがある?
加藤 栄養、トレーニング、休養を見直すと、「まだまだいける」と感じる。その繰り返しです。年齢に抗いながら身体を作っていくのが、また面白いんです。たとえ若いころにできていたことができなくなったとしても、今だからできることもある、そんなところでしょうか。
──日本選手権のファイナリストになって8年、加藤選手もベテランと呼ばれるキャリアになられたのですね。
加藤 私よりもキャリアが長く、年齢が上の選手もたくさんいらっしゃいます。私なんかまだまだ中堅です。ただ、ボディビルダーにとって30代後半から40代前半にかけての数年間は非常に重要な時期と私は思います。老化という現実を受け止めつつ、それに対処しながら継続し、さらなる進化を遂げる。そしてひとつでも多くの試合に出たいと思っています。
――若い世代の選手に脅威を感じることは?
加藤 脅威も感じますし、純粋にすごいなぁ、と思います。相澤隼人さんや坂本陽斗さんのような若い選手たちがどんどん台頭してこないと新陳代謝が起こりません。いかなる競技においても、若い世代の追い上げというものは、起こるべきして起こり、活性化させていくためには必須です。そうした中で私のような中堅がどうやって抗うか。面白いじゃないですか。
――ズバリ、今年の目標は?
加藤 昨年の自分を超えることです。ジャパンカップより良い状態で挑むことです。以前は「〇〇選手に勝ちたい」とか「〇位になりたい」とか、周囲のことを気にしていました。でも最近は考え方が変わってきました。まずは生かされていることに感謝、そして家族がいること、仲間がいること、仕事があることに感謝し、その上で今自分がやれることを精一杯やっていこうと思うようになりました。
――そういった考え方の変化が、トレーニングに及ぼした影響は?
加藤 いい意味でこだわりを捨てられるようになりました。「この種目をやらなければだめだ」と思っていたのが、「いつものマシンが空いていないから別の種目にしよう」と。そうすることで、より集中してトレーニングができるようになり、発見もありました。
――これまで自分を縛っていたこだわりを少し横に置いてみることで、この競技がより楽しめるようになった?
加藤 それもあると思います。今期は自分自身と向き合い、いろいろと考えました。そのことが自分を少しでも成長させてくれたと信じています。現状を受け入れて、その中で今、自分ができることを全力で取り組んでいくのみです。
加藤直之(かとう・なおゆき)
1981年生まれ、埼玉県出身。
身長161㎝、体重69~71㎏(オン)74~75㎏(オフ)。ゴールドジムアドバンストレーナー。2013年に9位という成績で日本選手権ファイナリストとなり、2019年には悲願のTOP3を果たした。
主な戦績:
2005年 千葉県ボディビル選手権優勝
2008年 関東クラス別選手権75㎏級優勝
2011年 関東ボディビル選手権優勝
2012年 ジャパンオープン選手権優勝
2014・2016年 日本クラス別選手権70㎏級優勝
2017年 アジア選手権70㎏級3位
2019年 日本選手権3位
執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表
取材・文:藤本かずまさ 撮影:北岡一浩
提供元・FITNESS LOVE
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