Point

・子ども向けの科学の本では、「男性」の科学者が登場する割合が「女性」の科学者を大幅に上回る
・稀に女性の科学者が登場しても、男性の補佐役として描かれることが多い
・このような女性の科学者の「ロールモデルの不足」が「科学は男性の分野」といった印象を子どもに与えてしまう

今年初めに行われた「大人になったらなりたい職業」に関する調査では、15年ぶりに「学者・博士」が男の子の1位に返り咲きました。しかし、学者や科学者が男の子の憧れの職業である一方、女の子について言えば、常にランク外。これは日本だけでなく、海外でも似たような傾向があるようです。この要因について海外の研究者は、「子ども向けの本に女性科学者のロールモデルがあまり登場しないから」だと主張しています。

Hairdressing in space: Depiction of gender in science books for children

イギリスの図書館にある子ども向けの科学の本を調査したところ、男性科学者が登場する比率が、女性科学者を大幅に上回ることが明らかになりました。また、稀に女性科学者が登場する場面でも、男性の「補佐役」として描かれるケースが多いようです。こうした女性科学者のロールモデルの不足が「科学は男性の分野」という印象を子どもたちに植え付けてしまっている可能性があります。

女性科学者はなぜ少ない?原因は「子ども向けの本」かもしれない
(画像=『ナゾロジー』より 引用)

さらに、「高学年の子ども」を対象とした本になるほど、女性科学者が描かれる比率が下がることも明らかになりました。ここから、「難しい内容は男性科学者」が、「簡単な内容は女性科学者」が扱うといった傾向が見て取れます。

以前に科学誌 “Science” の中に掲載された「広告」を対象とした調査では、広告の中で科学器具を使う女性モデルがしばしば、「商品が簡単に使える」という宣伝文句とともに登場することが分かっています。

科学や数学の分野における「女性研究者不足」の問題は、長い間議論を呼んできました。数学の分野でもっとも名誉ある賞である「フィールズ賞」を受賞した女性は、これまでにわずか一人です。また、A Level(イギリスの高校卒業資格試験)で物理を選択する女子生徒の割合は「約20%」であり、この比率は25年間変わっていません。また、工学を専攻する大学生のうち、女子の割合はわずか15%ほどとなっています。

女性科学者はなぜ少ない?原因は「子ども向けの本」かもしれない
(画像=『ナゾロジー』より 引用)

また、今回の研究では興味深い事実がもう一つ明らかになっています。それは、「生物」を扱う本では、男性科学者と女性科学者が登場する頻度に違いは無く、女性科学者が男性の同僚と同じ活動を行う場面が描かれていたのです。事実、英国の登録医師の約45%は女性が占め、研修医の数では女性が男性を上回っています。このことは、子ども向けの科学の本における女性科学者が描かれる頻度やその描かれ方が、実社会に少なからず影響を与えていることを十分に示唆しています。

研究を率いたカンブリア大学のスー・フィルブラハム博士は、「学校、図書館、書店、親たちは考えを改めなければなりません。女性科学者を単に絵に描くだけでは不十分。女性が技術的能力を持つ存在として描かれなければならないのです」と語り、私たちの意識改革の必要性を叫んでいます。

提供元・ナゾロジー

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