バロンズ誌、今週のカバーは過熱する米住宅市場を取り上げる。うなぎ上りの住宅価格、Fedの利上げに伴う住宅ローン金利の上昇、販売物件不足を受けて、貯蓄の少ない若い世代を始め新規の住宅購入者にとってマイホームは叶わぬ夢となりつつある。全米リアルター協会(NAR)によれば、新規の住宅購入希望者うち約190万人が住宅市場から閉め出される見通しだ。同時に、住宅を購入できない層は住宅保有を通じた資産効果から無縁となり、格差が一段と拡大しうる。住宅市場に関する問題の詳細は、本誌をご覧下さい。
当サイトは定点観測する名物コラム、アップ・アンド・ダウン・ウォール・ストリート、今週は逆イールドが点灯する景気後退サインはまやかしであるとのメッセージを伝える。抄訳は、以下の通り。
逆イールドが誤った景気後退サインを点灯している可能性―Inverted Yield Curve Could Be Sending a Bogus Recession Warning.
足元、市場ではイールドカーブの話題でもちきりだ。従来、市場は年限の長い債券に高い金利を要求する。しかし、時に短期ゾーンの金利が長期金利を上回る逆イールドが発生する。4月1日、米2年債利回りは2.44%と米10年債利回りの2.38%を上回り逆イールドが発生した。3月にFedが2018年12月以来の利上げに踏み切った動きに、短期金利が大きく反応したとみられる。
過去を振り返ると、逆イールドは景気後退のサインであり過去7回中6回的中してきた。今回はどうなのだろうか?
少なくとも、米3月雇用統計によれば労働市場は活況そのもので、その兆しはみられない。
そもそも、景気後退は引き締め寄りの金融政策によってもたらされてきた。現時点でのイールドカーブの動きは市場がFedの利上げを先取りしたもので、実際には25bpしか利上げしていない。もちろん、足元は雇用の最大化が達成されたも同然で約40年ぶりの高水準にあるインフレ退治に集中できる状況であり、Fedが積極的な利上げを講じる公算が大きい。FF先物市場では、5月と6月に50bpの利上げを行い、それ以降は25bpにとどめつつ年末にFF金利を2.50~2.75%へ引き上げるとの見方が優勢だ。
こうした見方を反映し逆イールドが発生する一方で、NY地区連銀のエコノミスト、アルトゥーロ・エストレラ氏によれば注目すべきは米3ヵ月物TBと米10年債利回りのスプレッドで、こちらも景気後退入りのサインとして意識されるが、足元でプラスを維持している。
同時に、キャピタル・エコノミクスのポール・アシュワース首席エコノミストによれば、米10年債利回りは上昇したとはいえ、引き続き低水準にあり実質ベースではマイナス圏にある。また、米10年物インフレ連動債(TIPS)利回りはマイナス0.46%だった。一部の社債や住宅ローンの利回りも、実質ベースではマイナス圏で推移する。従って、金融市場は緩和的と捉えられ、仮に一連の金利が上昇したとしても、アシュワース氏は住宅市場を始め耐久財、設備投資など支出への影響につき限定的と見込む。
チャート:米3ヵ月物TBと米10年債利回りのスプレッドはプラスを維持し景気後退のサイン点灯せず、米10年物TIPSはマイナス圏で推移
FedがFF金利誘導目標を設定する一方で、年限の長い金利はマーケットが決定し、市場の論理的な見通しを映し出す。J.P.モルガン・チェースの米国債ストラテジー・ヘッド、ジェイ・バリー氏は、Fedが量的緩和を通じ米国債を25%を取得したと分析する。その結果、Fedの保有資産は約9兆ドルと、コロナ前の約2倍に膨れ上がっており、Fedが保有資産の縮小を開始したとしても、その効果は暫く残存するだろう。
何より、逆イールドが発生してたも、シカゴ地区連銀やゴールドマン・サックスが提供する指数は金融引き締めを表していない。むしろ、ゴールドマン・サックスが算出する指数は実質ベースで未だ緩和的で、同社のエコノミスト、デビッド・メリクル氏が指摘するように、積極的な利上げの必要性を示唆する。仮にそうなった時こそ、我々は懸念すべきだろう。
――米債市場では逆イールドという景気後退入りのサインが点灯する一方で、米株相場は堅調そのもの。米2年債・米10年債利回り格差ががマイナスとなる逆イールドが発生したとしても、実質金利がマイナスで推移する以上、現時点で金融環境は緩和的とされ、米株相場を支えているのでしょう。
チャート:全米金融環境指数は、未だ緩和的な状況を示唆
ただし、足元が緩和的でもFedが積極的な利上げを進めれば、金融環境が引き締め寄りになること必至。米2年債・米10年債利回りだけでなく、米3ヵ月物Tビル・米10年債利回りのスプレッドまで縮小し、場合によっては逆イールドに転じてもおかしくありません。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2022年4月3日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。
文・安田 佐和子/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?