日本の公的年金制度は「国民年金」と「厚生年金」の2階建てだ。それぞれに受給額の計算方法があり、受給資格に関する規定も異なる。今の給与状況などで受給額はどう変わるのか。計算方法を紹介する。

日本の公的年金制度「国民年金」「厚生年金」をおさらい

日本の公的年金制度は、20歳以上の人すべてが加入する基礎年金「国民年金」と民間企業などに勤めるサラリーマンが加入する「厚生年金」の2階建て構造になっている。学生やフリーター、自営業者の人に対しては2階建ての部分として「確定拠出年金」や「国民年金基金」が、公務員に対しては「共済年金」がそれぞれ用意されている。

企業に勤めている間は、会社が各社員の厚生年金保険料と国民年金保険料を給与から天引きする形で国に納付する。そのため会社員は将来、厚生年金と国民年金の両方を受給することができる。一般的には会社の給与明細には「厚生年金保険料」という支出項目があり、この項目には国民年金保険料も含まれている。

日本の公的年金制度は、現役世代が支払った保険料を高齢者が受給する年金に充てるという「賦課方式」を採用としている。この保険料財源だけではなく、年金積立金や国民が支払った税金も高齢者への年金給付の財源として使われている。

ここからは具体的に国民年金と厚生年金の受給額についての計算式を紹介し、受給額をシミュレーションしながら紹介する。

国民年金の受給額の計算方法とは?

国民年金を受給するためには、保険料を納付した期間が10年以上ある必要がある。この期間には保険料免除期間のほか、受給資格期間としてみなすことができる期間である「合算対象期間」も含まれる。2018年4月から2019年3月までの国民年金保険料は月額1万6,340円で、2017年度の1万6,490円から150円減額された。満額を受け取るためには、40年間分を支払う必要がある。

支給が開始されるのは65歳だが、繰り上げ受給も申請することができる。ただ、繰り上げ受給を開始した場合は受給額が減額される。また、年金の受給を66歳から70歳までの間で遅らせることも可能だ。この場合は年金受給額が増額される。

国民年金の受給額を満額で受け取れる場合は年77万9,300円(2018年度)が支給される。ただ加入年数や受給開始年齢によって受給額は異なる。受給額を計算するためには、「保険料全額納付済月数」「全額免除月数×50%」「4分の1納付月数×62.5%」「半額納付月数×75%」「4分の3納付月数×87.5%」を足した合計額を固定値である480カ月(40年間)で割り、77万9,300円をかける。

65歳から受給を開始した場合は上記で計算された受給月額を受け取ることができるが、繰り上げ受給と繰り下げ受給の場合はそれぞれ減額、増額される。繰り上げ受給の場合は、請求時の年齢が60歳の場合は減額率が42.0%、61歳の場合は減額率が35.0%、62歳の場合は減額率が28.0%、63歳の場合は減額率が20.0%、64歳の場合は減額率が11.0%となっている。

繰り下げ受給の場合は逆に増額される。66歳の場合は増額率が112%、67歳の場合は126%、68歳の場合は143%、69歳の場合は164%、70歳の場合は188%となる。ここまで説明した受給額の計算方法を踏まえ、実際に受給額をシミュレーションしながら紹介する。

国民年金の受給額の計算シミュレーション

Aさんは国民年金保険料を40年間分支払い、全額免除や半額納付などの適用がされたことはない。年金の受給は繰り上げ請求を行って、63歳から受給を開始した。

受給額を計算するには、まず65歳からの受給額を算出する。保険料全額納付済月数480カ月(40年間)を固定値である480カ月で割り、それに77万9,300円をかける形になるので、65歳から受給する場合の額は満額の77万9,300円となる。これに63歳から繰り上げ受給する場合の減額率20.0%を反映させ、年間の受給額は62万3,440円となる。

Bさんは、国民年金保険料を30年間分支払ったが、そのうち10年間は半額納付だった。また、全額免除された月がこのほかに5年間あった。一方で受給開始年齢については繰り下げ請求を行い、69歳から受け取った。

このBさんが65歳から受給したときの額は、保険料全額納付済月数240カ月(20年間)に半額納付分90カ月(10年間×75%)全額免除分と30カ月(5年×50%)を足した額を固定値である480カ月で割り、それに77万9,300円をかける形になるので、58万4,475円になる。69歳からの受給は増額率が64%なので、最終的には95万8,539円となる。

Cさんは、国民年金保険料を支払ったことが無かったが、全額免除月数が10カ月あった。受給については繰り上げ支給を行い、年金は65歳から受け取った。この場合、65歳からの基本受給額は60カ月(10年×50%)を固定値である480で割り、それに77万9,300円をかける形になるので年9万7412円となる。

厚生年金の受給額の計算方法とは?

厚生年金は、1カ月以上の加入期間があれば受給することが可能だ。支給開始年齢は原則として60歳となっており、65歳未満の人と65歳以上の人で計算方法が異なる。65歳未満の場合は「定額部分」「報酬比例部分」「加給年金額」を合計した額が受給額となる。

まず定額部分は「1,625円」に「生年月日に応じた率」と「加入期間月数」をかけて算出される。生年月日に応じた率は表で定められており、加入期間月数は1934(昭和9)年4月2日~1944(昭和19)年4月1日生まれの人は444カ月、1944(昭和19)年4月2日~1945(昭和20)年4月1日生まれの人は456カ月、1945(昭和20)年4月2日~1946(昭和21)年4月1日生まれの人は468カ月、1946(昭和21)年4月2日以降に生まれた人は480カ月が上限。報酬比例部分は平均給料に一定乗率と加入期間をかけた金額となる。

加給年金額は、厚生年金保険の加入期間が20年以上あり、定額部分の支給開始年齢に達したときに配偶者や子供がいるときに加算される。65歳未満の配偶者がいる場合の加給年金額は年額22万4,300円で、18歳未満の子供の1人目と2人目が対象となる加給年金額は年額各22万4,300円、3人目以降の子供が対象となる加給年金額は年額7万4,800円となっている。また、厚生年金受給者の生年月日によって3万3,100円から16万5,500円が特別加算される。

65歳以上の場合は「報酬比例年金額」「経過的加算」「加給年金額」を合計した額となる。報酬比例年金額と加給年金額の計算方法は65歳未満の場合と基本的には同じで、経過的加算の計算式も別途定められている。

また65歳未満の場合も65歳以上の場合でも年金受給資格者が企業勤めを続け、勤務先で厚生年金に加入しながら厚生年金を受給している場合、厚生年金の合計額や月給の合計額によっては年金の支給が停止されることがある。

厚生年金の受給額の計算シミュレーション

ここまで説明してきたことを踏まえ、65歳以上の厚生年金のおおよそ受給額を計算してみる。報酬比例年金額は2003年3月までの給与金額と2003年4月以降の給与金額がそれぞれ計算に必要なので、そちらの金額をそれぞれ指定してシミュレーションする。

Cさんは、2003年3月までの平均給与は40万円で加入期間は20年、2003年以降の平均給与は70万円で加入期間は10年だった。配偶者もおらず、18歳未満の子供もいない。この場合は報酬比例年金額が年114万404円、経過的加算が285円、加給年金額は0円となり、年114万4,689円を受け取ることができる計算となる。

Dさんは、2003年3月までの平均給与は60万円で加入期間は30年、2003年以降の平均給与は100万円で加入期間は10年だった。配偶者がおり、18歳未満の子供が2人いる。このケースでは、報酬比例年金額が219万3,431円、経過的加算が380円、加給年金額が83万9,100円となり、合計で年303万2,911円の受給を受けることができるという計算となる。

この額は厚生年金受給額なので、国民年金の受給資格を得ている人はこの厚生年金受給額に加えて国民年金も受給できるということになる。

日本の年金制度の変遷とは?

日本の年金制度は太平洋戦争中の1942年にスタートした。労働者年金保険法が発足したのが始まりで、この法律は1944年に厚生年金保険法に改称され、1947年に全面改正される。1961年には国民年金法の全面施行が行われ、国民皆年金が導入されることとなった。この期間は年金制度の創成期とされる。

1965年までは、厚生年金の定額部分は年金に加入していた期間とは関係なく算出されていた。しかし、1965年の改正で加入期間が受給金額に対応する仕組みに改められた。1973年には物価に応じて支給額が変動する「物価スライド制」が導入されたほか、標準報酬の再評価なども行われた。

1985年以降は高齢化に対する対応なども政策として行われた。1985年には基礎年金が導入され、1997年には厚生年金の定額部分の支給開始年齢が引き上げられた。2000年にはJR共済とJT共済とNTT共済の3つの共済が厚生年金に統合され、2002年にはこれに加えて農林共済も厚生年金に統合されている。

世界的には受給開始年齢が引き上げられる傾向

年金制度は世界的にも高齢化などの影響を受けながら、年金受給の開始年齢が徐々に引き上げられる傾向にある。日本では国民年金と厚生年金は60歳から70歳の間で受給開始年齢を選択できるが、今後は70歳以上に引き上げられる可能性もある。

また年金制度自体にも変化が出てくる可能性もある。世界的に見ても年金制度は各国・地域の制度がバラバラで、制度のメリットやデメリットもそれぞれ存在している。(岡本一道、金融・経済ジャーナリスト)

文・ZUU online編集部

 

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