アメリカのFRB(連邦準備理事会)は定例の政策会議を実施、利上げ時期がやや早まり23年度になるのではないか、とみられています。一方、パウエル議長は今日まで繰り返し物価上昇は一時的、とかなりの自信をもって言い切っています。「労働市場に大きな緩み(=労働市場が回復していないこと)があるときにインフレ期待を高めるような物価上昇が続くとは考えにくい。あり得ない」(日経)とかなり強い確信をもって現在の物価高の状況が一時的であると述べています。

働くか、自由を謳歌するか?コロナ後の選択
(画像=AlbertPego/iStock、『アゴラ 言論プラットフォーム』より引用)

3月の終わりから4月にかけて一部で散見された「ウッドショック」という言葉。3月のアメリカ新規住宅着工件数が15年ぶりの水準まで上昇、建築木材も1年前に比べ数倍に上昇し日本国内でも木材がないと大騒ぎしました。当時私が確認した木材業者は「高騰は1-2年続くから木材の確保を急ぐように」と力説していました。一方、私は「沈静化する」「木材の価格は2-3カ月で必ず下がる」と断言しました。

アメリカの木材先物取引相場は3月に1700ポイントまでつけた後、現在は1000ポイントを割り込んでいます。4割以上の下落です。予想通りで大半の専門家は相場を読み違えました。なぜでしょうか?多くの判断は 低い金利→コロナ回復→消費欲向上→リモートワーク万歳→住宅購入 のシナリオに持続性があるとみたのです。私はそんな考えは10キロマラソンを全力疾走するようなものだ考えていました。

このシナリオの最大の欠点はリモートワーク万歳まではまだしも、それ故に住宅を買うという点にジャンプがあるのです。そもそもCOVIDで多くの方は経済的に苦しんだのです。なぜ、住宅を購入できる資金があるのかと考えればおのずと答えは出てきます。家を購入しているのは株などの非労働収入があった人が主流であって需要の底は浅いのです。

もう一つは木材が不足していたのではなく、木材を扱う人が足りなかった、そちらに要因があったはずです。よって人が戻ってくれば相場は下がるのは自明なのです。

さて、この労働力でありますが、FRBはコロナ前に比べて800万人分の職がまだ不足している、よって仮に月に50万件ずつ雇用が改善しても16カ月、つまり、22年の秋まではこのギャップが埋まらない、だから金利は低めが維持される、というストーリーです。

私はこのシナリオは言うほど単純ではないとみています。そのキーワードの一つが労働参加率(Labor Participation Rate)で、コロナ前に比べざっくり2%ベーシス下がって61.6%(21年5月)となっています。働く意思がある人が少なくなっている、というわけです。長期的にみると1960年代後半の59%程度から2001年の67%台まで上昇した後、2015年まで完全な下げトレンドでそれ以降、やや持ち直していましたがコロナで70年代初頭の水準まで下げ、現在も70年代半ばの水準にあります。

理由はブーマー層のリタイアもありますが、女性の労働参加率が下がっているのです。働く女性の比率は過去50年でほぼ2倍の32%から60%台になったのですが、今世紀になって下がり始め、コロナで一気に下がり現在は55%台になっています。アメリカの女性の社会進出のそもそもの理由はベトナム戦争で男手が足りなかったことに起因しています。日本では女性の社会進出が花盛りのテーマですが、アメリカでは既に20年前にそのトレンド変化が起きているのです。これは日本の女性の社会参加率が将来的に頭打ちになる可能性を示唆していると思われ、より深い研究が求められます。

私はアメリカの労働参加率はコロナ前の水準には戻らないと思うし、失業率の改善もここからは緩慢になる気がしています。一つには最低賃金上昇もあり、賃金が上昇しすぎて企業経営のスタンスが変わる可能性があること、もう一つはそもそも言われていたAIやロボットへの移行が更に進むだろうと考えています。

とすればかなり変な話ですが、アメリカ企業が労働者がより少ない経営効率重視型の運営となり、それが企業利益を押し上げる一方、労働市場から退出した人たちが株式などで運用している資産が自然と上昇し、安定した不労所得が得られるというシナリオが絶対にないとは言い切れないかもしれません。

北米の場合、物価上昇がほぼ右肩上がりで継続されていることに不労所得が得られやすい背景があります。例えば不動産は物価上昇と相関関係ですので20年もすれば価格が2倍になっても何の驚きもありません。つまり、不労でも資産さえあれば株でも不動産でも時間軸と共に自動的に増えていくシナリオなのです。これは蓄財のあった高齢者は路頭に迷わなくてよい仕組みであると言えます。また相続税が緩い北米ではそれを子供たちが受け継ぐこともできます。

日本はそれに失敗しました。相続税は厳しいし、物価上昇も嫌ったからです。10年後の資産形成より今日のミルク代を選んだとも言えます。とすると日本人はいわゆる一般的な定年後もかなり長く働かざるを得ず、75歳までの就労は生きるための必然的チョイスになります。一方、適度なインフレがある国は若い時からの資産形成が自動的にできるので早期リタイアをしたり、人生を謳歌することが可能になりやすいともいえるのです。

コロナ後、私が予見するのは質の良い労働力の確保に企業は苦労しそうだ、という点です。その場合、賃金上昇が進み、コロナが落ち着く2022年後半には悪いインフレが起きないとも限りません。それまでに労働をAIとロボットに転換できるかが重要になってきそうだとみております。また、FRBが23年以降、利上げを実行しても上げ幅は知れているとみています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年6月17日の記事より転載させていただきました。

文・岡本 裕明/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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