子供を安心させ、心地よく眠らせるために歌われる子守唄。

これは世界各国、さまざまな言語で存在していますが母国の言語さえまだわからない乳児にとって世界の子守歌はどのように聞こえるのでしょうか?

10月19日に科学誌『Nature HumanBehavior』で発表された研究によると、ハーバード大学音楽研究所のチームが、アメリカの乳児には馴染みのない海外の子守唄を聞かせてみたところ、乳児がみなリラックスしたと結果を報告しています。

子守唄には国境を超えた普遍的な何かがあるのでしょうか?

目次
音楽の印象は経験に支えられているのか?
子守唄によるリラクゼーション状態の測定実験
国境を超えて伝わる音楽のイメージ

音楽の印象は経験に支えられているのか?

赤ちゃんは”どんな言語の子守唄でもリラックスできる”という研究
(画像=音楽で得られるリラックス。 / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

音楽が人に与える心理的な効果は、リスナーの経験に起因するものなのでしょうか? 心理学的な音楽の基本設計が影響しているのでしょうか? ここには長年の議論があります。

では、乳児が子守唄でリラックスするのは、両親が歌っていたという経験が元になっているのでしょうか?

ハーバード大学音楽研究所の主任研究員であるサミュエル・メール氏は、そのような疑問が今回の研究の動機になったと説明しています。

研究から得られた結果は、この問いを否定するものでした。乳児の経験から見れば不慣れなメロディーと言語で歌われた異国の子守唄を聞いても、リラックス状態を示したのです。

これは乳児が歌の普遍的な要素に反応したことを示すものです。

子守唄によるリラクゼーション状態の測定実験

赤ちゃんは”どんな言語の子守唄でもリラックスできる”という研究
(画像=実験に使用されたアニメーションイメージ。 / Credit:Bainbridge et al.,Nature HumanBehavior(2020)、『ナゾロジー』より引用)

実験では、各乳児に子守唄と子守唄以外を歌っているキャラクターのアニメーションビデオを見せました。

乳児のリラクゼーション状態は、瞳孔の拡張、心拍数の変化、皮膚電気活動(皮膚の電気抵抗から覚醒や興奮の尺度を調査するもの)、まばたきの頻度、視線方向が記録され、そこから総合的に判断されました。

一般的にリラクゼーション状態は、心拍数の低下、瞳孔の拡張、皮膚電気活動が弱まるなどの反応を示します。

乳児の注意力は時間が限られており、だいたい5分程度しかもちません。理想的な実験では、子守唄を十数曲、子守唄以外を十数曲聞かせてそれぞれのデータを広く取りたいのですが、乳児の注意力は短いため、実験も短くデザインする必要がありました。

以下が実験で使用された楽曲のサンプルです。

スコットランドのハイランド地方の子守唄。

メキシコのセリ族のヒーリングソング。

実験に使われた楽曲は、音楽研究所の事前調査から選ばれました。

選択された曲は、スコットランドゲール語、ホピ語、西ナワトル語、ポリネシア、中央アメリカ、中東などの言語のものが含まれています。

結果、測定されたデータはいずれも子守唄を聞かせた場合に、乳児がリラックス状態にあることを示していました。

赤ちゃんは”どんな言語の子守唄でもリラックスできる”という研究
(画像=皮膚電気活動を示すデータ。青が子守唄を聞かせた場合。灰色は信頼帯。値が下がっているとリラックス状態を意味する。 / Credit:Bainbridge et al.,Nature HumanBehavior(2020)、『ナゾロジー』より引用)

歌われている言語に馴染みがなく、知らない文化圏の音楽であっても、癒やしをテーマにした子守唄を聞かせた場合、乳児はリラックスすることができたのです。