ロシア科学アカデミー(Russian Academy of Sciences, 略称RAS)は、ロシア連邦(以下「ロシア」)における学術研究を統括する最高学術機関であり、多くの研究所を傘下にもつ。

ロシアの科学技術:改革とその行く末 --- 新田 英之
(画像=ロシア科学アカデミー(旧ソ連科学アカデミー)本部ビル。,『アゴラ 言論プラットフォーム』より 引用)

ソ連崩壊後、先進諸国と比べたロシアの科学技術力は、出版論文から分析する限り、論文数でみる量においても、被引用数等から見る質においても、顕著な低下がみられる。

様々な原因が想定されるが、研究資金の減少と非効率的な運用や、古典的な学問分野に偏重し、AI(人工知能)、量子技術、半導体などの次世代技術や産業の基盤となる分野に重きを置いていないことが挙げられる。そして何より、研究者の大半が40~60歳と、平均寿命の短いロシアにおいては高齢者に属する世代が占めていることが最大の課題であるといえる注1)。ソ連崩壊後研究予算が大幅に減り、若い世代の研究者離れが進んだ結果ともいえる。

比較的独立した組織であったRASの資金を政府が直接管理すべく、2010年代に一連の改革が行われ、2018年3月にはプーチン大統領の指令による省庁再編注2)で科学・高等教育省に属することになった。今後はRASと科学・高等教育省との円滑な連携や、若手研究者の確保が課題と思われる。これらの課題をうけ、若手研究者を給与面で優遇するなど、いくつかの対策をとり始めた。

改革の成果を測ることは困難であるが、2022年に始まったウクライナ侵攻による経済的ダメージの影響は避けられないと思われる。更に、ロシア政府が自国研究者の国際学会参加を禁止したことで、ロシア人研究者がグローバル競争で苦戦を強いられることが想定される注3)。RASは2022年3月に停戦と平和的解決を求める声明を出している注4)。

若い世代の研究者離れ、グローバル活動の萎縮、研究資金の非効率な運用などは、低迷する我が国の学術界が抱える課題と重なる。状況がより深刻なロシアの学術界から、我が国の将来を少しでも良い方向に導くヒントを見いだせないものか。

新田 英之
東大工学部卒、工学博士。日仏米の研究機関・大学でマイクロ工学・ナノバイオ科学の研究に従事した後、外資コンサル、公的シンクタンクを経て大手ICT企業に在籍。文部科学大臣表彰等多数受賞。

文・一般投稿/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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