2004年、NASAの紫外線宇宙望遠鏡「GALEX」は、天の川銀河でこれまで見たことのない不思議な天体を発見しました。
それが上の画像のような青いリング状の星雲です。この天体は発見から16年間研究されてきましたが、調べるほど謎が深まる一方で、一体なんであるのかが不明でした。
しかし、11月18日に科学雑誌『nature』に発表された新しい研究は、ついにその正体を突き止めたと報告しています。
これは2つの星が衝突して1つに融合した天体でしたが、そこには想像を超えた数々の新しい発見が含まれていました。
謎の青い環状星雲
これは「TYC 2597-735-1」と名付けられた星とその周囲を囲むリング状の星雲の画像です。
青い輝きは遠赤外線の光です。肉眼で直接見ることはできませんが紫外線宇宙望遠鏡「GALEX」の画像では、ぼんやりと青く輝くリングが明るい星を囲んでいるのがわかります。
さらに、その周りには赤い光の帯のようなものも見えます。
見た目には中心の星から急速に離れるように、ガスが膨張してリング状の星雲を作り出しているように見えます。
最初科学者たちはこれが単なる惑星状星雲であると考えていました。
太陽くらいのサイズの恒星は、その寿命の最後に膨張し物質を外側へ放出して環状星雲を星の周囲に作り出します。
しかし、ハワイのケック天文台など複数の望遠鏡から得られたデータは、その可能性を否定するものでした。
惑星状星雲と考えるには、あまりに周囲に破片が多かったのです。
こうなると考えられるのは、2つの星の衝突した残骸だという可能性になります。
天の川銀河には2つの星が回りあう連星系が数多くあり、これらの連星はいずれ星同士が接近して合体し終焉迎えることがあるのです。
しかし、単に恒星の衝突と考えた場合にも矛盾するデータがありました。
「TYC 2597-735-1」は水素が不足していてかなり古い星であることが示されているのに、その周りからは多くの赤外線放射が観測されたのです。
これは、若い星の周りによく見られる土星の環のような降着円盤の存在を示唆するもの。
こうした見え方は天体の衝突にも適合しません。
調べれば調べるほど謎が深まる一方で、研究者たちは困惑してしまいました。
青い環状星雲の真の姿
あまりに矛盾するデータが多いため、GALEXの研究チームはこれをなんとか理解するため、コロンビア大学の理論物理学者ブライアン・メッツガー氏をチームに迎え入れました。
「ブライアンは私たちが見ているものがなんなのか、最初から予測していました」今回の研究の筆頭著者、カリフォルニア工科大学の天体物理学者ホードリー氏はそのように語っています。
メッツガー氏は青い環状星雲が恒星の合体からわずか数千年の状態を目撃しているのだと説明しました。
通常、星の合併は爆発の破片が星を覆い隠してしまうため、観測者はそこで何が起こっているのか見ることができません。
そのためチームはこれが星の合併である場合、星を見るために破片の雲が十分薄くなった状態であると考えるしかありませんでした。
すると状況がデータと合わないことになってきます。
しかし、メッツガー氏の理論は、この場合の星の合併は星を見えなくするほど破片が分散しなかったのだ説明しました。
つまり、この天体はまだ天文学者が目撃したことのない、2つの星の合併直後の様子だったのです。
だから、データの示す意味が理解できなかったのです。
具体的にそれはどういう状態なのでしょうか?
メッツガー氏のモデルは、観測された環状星雲が実際はリングでも球体でもないと示しています。
上の動画がメッツガー氏の示した青い環状星雲の正体です。
この天体は確かに恒星の衝突によって生まれたものですが、非常に特殊な破片の広がり方をしました。
連星の大きな主星は寿命の終わりに近づき大きく膨んでいきます。
小さな伴星はそれに引かれて螺旋状に大きな星の方へ落ちていきましたが、途中で外層が重力によって引き裂かれチリの円盤を作り出しました。
その後、チリの円盤を持った伴星が主星に衝突したとき、その円盤は星の反対方向へと吹き飛ばされました。
吹き飛ばされた円盤は外側にいくにつれて大きく広がっていき、最終的に円錐型の破片の雲を作り出したのです。
それらは暗すぎて単独では地球から見えません。
しかし、地球から見て2つの円錐が重なった領域は強い遠紫外線の放射として観測され、青い環状星雲に見えたのです。
青い環状星雲は、恒星の合併によって生じた特殊な破片の広がりと、地球から観測する角度が生み出した偶然の姿だったのです。