コロナ禍で思い切り身体を動かす機会がなかなか得られず、ストレスを感じている人は多いでしょう。
しかし、ジムなどに行けないときは、「音楽」が頼りになるかもしれません。
ニューサウスウェールズ大学(UNSW・豪)らの新たな研究により、音楽を聴いたり、演奏したり、歌うことが、メンタルヘルス(精神衛生)にプラスの作用を与えることが示されました。
その効果はエクササイズなどで身体を動かして感じる爽快感とほぼ同じであったとのことです。
研究の詳細は、2022年3月22日付で医学雑誌『JAMA Network Open』に掲載されました。
音楽は運動と同じくらい「心をハッピー」にする
近年、音楽とウェルビーイング(健康・幸福)の関連性を指摘する研究が増え続けています。
たとえば、合唱団への参加が、がん治療からの回復に効果的であることが示されています。
一方で、「音楽にどの程度のメンタルヘルス効果が期待できるのか」については、あまり理解されていません。
そこで本研究チームは、音楽が「健康関連クオリティ・オブ・ライフ (HRQoL)」に与える影響を調査した、26の先行研究(のべ779人を対象としている)のメタ分析を実施。
※HRQoL:健康状態を原因とする「生活の質(QoL)」に焦点を絞ったもの
これらの研究はすべて、HRQoLを測定する尺度として広く評価されている「SF-36(Short Form 36 Health Survey)」および、その短縮版の「SF-12」を用いています。
※SF-36:HRQoLを測定する大まかな包括的尺度。「身体機能」「心の健康」「全体的幸福感」など、8つの健康概念を評価するための36項目の質問から成り立つ。
SF-12は、そこから12項目を選び出した短縮版。
それを「非薬品的・医学的介入(エクササイズなどの運動)」の健康効果を調べたほかの研究と比較検討しました。
その結果、音楽がメンタルヘルスに与える効果は、運動や減量プログラムに参加する人々に見られるのと、ほぼ同じレベルであることが判明したのです。
さらに、うち8件の研究のサブセットは、通常の治療に音楽療法を加えることが、HRQoLの向上に有用であることを実証していました。
この成果からチームは、良好なメンタルの維持や精神疾患からの回復のために、医師がなんらかの音楽療法をより積極的に使用することを推奨しています。
その一方で、「音楽療法は全体的にポジティブであったものの、その効果は個人間でばらつきが見られた」と指摘しました。
つまり、音楽療法がすべての人に効果的であるとは必ずしも言えないようです。
それでも、研究者は「音楽を聴いたり、歌ったりすることは非常に楽しい活動であり、運動ほど大変な思いをしなくて済むでしょう」と、音楽療法の別のプラス面について言及しています。
チームは今後、「特定の臨床および公衆衛生シナリオで使用するのに最適な音楽療法や方法、その効果を明らかにしていきたい」と述べています。
身体を思いき動かすことは、身体の健康に良いだけでなく、精神的な健康においても良いリフレッシュになります。
しかし現在、「コロナ禍でジムに行くのが心配」など、都会では思うように運動する機会を得られない人も多いでしょう。
でもそんなときは、家で音楽を聴くだけでも、同じくらい気分的には良いリフレッシュ効果を得られるかもしれません。
参考文献
Music Is Just as Powerful at Improving Mental Health as Exercise, Review Suggests
元論文
Association of Music Interventions With Health-Related Quality of Life
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功