秘書をしていたころ、ある雑誌社から社長名の記事の依頼がありました。社長室長から「君の親分だから君が書いてくれ」と指示を受けました。社長は銀行から来た人で社内では「外部の人」。よって社長と行動を共にしている私が一番知っているだろうということでおはちが回ってきたものです。
さて、何を書こうかと悩み、自社開発で自分が開発担当ながらも日本最高額の法人会員権販売で日経にも掲載され話題になったゴルフ場の話を中心に展開させました。今から30数年前の話ですが、こういう記憶は非常に鮮明に残っています。出来上がったゲラを社長に見せたところ、渋い顔。その理由は「ゴルフ場開発が環境にいいわけない。それなのにゴルフ場にいるとすがすがしい気持ちになるというのは自分の意思に反する」と。おおーっ。
先般、林真理子氏の88-87年頃の短編集をまとめた新装版文庫を読んでいたら不倫相手が家でゴルフを見ながらビールを飲んでいるシーンが描写されていていました。言われてみれば当時の小説ネタにゴルフはよく絡んでいた記憶があります。バブルの最中、部長も重役も社長も社業をほっぽりなげてゴルフ場に通勤。19番ホールでようやくビジネスの話をするような感じでした。上述の自社開発ゴルフ場からは毎日来場者の社名、役職名、氏名、組み合わせがファックスで送られてきており、社長と会長は日課でそれをじっくり見て「なるほど、この会社が今、ここと動いているのだな」と全部、丸見え状態でありました。
さて、コロナで人との距離を置きたいこともあってか、長年不振と言われたゴルフは復活ののろしか、というほど人気があるようです。洋の東西を問わず、ということですが、私から見れば「行くところがないからゴルフが消去法で残ったのだろう」とみています。
私も人生でゴルフ場経営を日米で2度やって、6-7年前にはアメリカのゴルフ場の買収で最後まで交渉したものの価格が折り合わず降りたぐらいですのでそれなりに経営側については理解があります。正直、ゴルフほど儲からないものはないと思っています。私から言わせればコースの価値はタダ。私が買収しようとしたゴルフ場は周りに住宅開発の権利がついていたから買おうと思ったのです。よって私のコースの価値の査定もゼロでした。結局そこは倒産してしまいました。
ゴルフが今の人に受けるか、と言えばもちろん、一部の人にはYESかもしれないですが、今の感じからすればゴルフ場が半分になってもまだ余るペースだとみています。私もゴルフを止めて10年ですが、理由は時間のコミットメントができない、それに尽きるのです。当地なら最速18ホール、4時間強でラウンドして19番ホールなしという楽しみ方をする人もいます。それでも往復の時間を考えれば6時間で日中の半分はとられてしまいます。
かつて麻雀が流行っていた時代、人々はヒマだったのです。完全に時間つぶしが前提でした。ゴルフは時間をぜいたくに使うと同時に乗っていくクルマをさりげなく見せ、クラブを見せ、歩きながら自分のライフを自慢したりするのが私には性に合いませんでした。つまりゴルフは麻雀の時間的余裕に金銭的余裕を掛け合わせハードルを上げることで「ソーシャルクラブ」としての品格を保ったわけです。(私の勤めていた会社はゴルフ場造成に関しては日本ではかつて有数の会社で、私はゴルフ場の作り方の社内向け読本を共著で書いたこともあります。)
ゴルフが流行ったもう一つの理由はプロと自分が融合できる夢があったと思います。〇〇ツアーで使うゴルフ場でプレーをする憧れで、関東では当時「川奈」が圧倒していた記憶があります。考えてみればプロがPAR72前後で廻るのに対して俺はシングルだ、とか80台だといった自分を昇華させるには絶好のチャンスがあったのだと思います。
日経に「人気低迷が続く男子プロゴルフ 今こそ2つの組織統合を」とあります。驚いたのはツアー機構が主催する男子ゴルフは年間25試合、賞金総額32億円に対して女子は38試合43億円と完全なる逆転現象となっているのです。かつては女子は賞金が安いと評判でした。また、松山英樹など主流選手が海外ツアーを主力としているため、国内にめぼしい選手がいないとも書かれていますが、いないのではなく、育っていないということでしょう。つまり、この30年間、ゴルフと無縁の社会が形成されたことで若手が全然育たなかったわけです。
ゴルフ場が太陽光発電の基地になるのかもしれません。これも時代の変遷でしょうか?環境に良くないゴルフ場だからこそ、今、太陽光発電で環境に還元してあげるのも乙な計らいとも言えなくもないですが。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年3月27日の記事より転載させていただきました。
文・岡本 裕明/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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