不思議な形状を取ることが多い深海生物の中でも、特に目を引く生物の1つが楽器のハープにそっくりな姿をした「タテゴトカイメン(和名)」です。

正式名称(学名)は「コンドロクラディア・リラ(Chondrocladia lyra)」。

この生物はモントレーベイ水族館研究所(MBARI)のロニー・ランドセン博士率いる研究チームにより、2000年にカリフォルニア沖の水深およそ3300mで初めて発見されました。

見た目だけでなく、その機能も独特なタテゴトカイメンの生態に迫ります。

研究は、2012年10月にモントレーベイ水族館研究所(MBARI)によって発表されました。

目次
タテゴトカイメンの個性的な生態
ハープのような羽根の構造はなんなのか?

タテゴトカイメンの個性的な生態

まるでハープみたいな変な生き物「タテゴトカイメン」とは
(画像=2枚の羽根を持つコンドロクラディア・リラ / Credit: The harp sponge: an extraordinary new species of carnivorous sponge、『ナゾロジー』より引用)

本当に生物なのか疑問に感じてしまうほど、奇妙な姿をしたタテゴトカイメン。

この生物は、カリフォルニア沖の深さ約3300mの海底に、柔らかい泥に根を張るようにして生息しているのが発見されました。

体調はおよそ37センチあり、海綿動物のなかでは大きい部類です。

ハープのような羽根の数は個体によって異なり、1枚しかない個体もいれば最大6枚の個体も確認されています。

放射状に伸びる羽根はほぼ等角に広がっており、対称性があります。

この生物に対して、アニメ作品「エヴァンゲリオン」に登場する使徒みたいという感想もあるようですが、その印象はこの不思議な幾何学的構造にあるのかもしれません。

また分類上は動物ですが、リゾイドという植物の根っこのような構造を海底に張って、海流に負けず、自身を固定しています。

ハープのような羽根の構造はなんなのか?

羽根を構成する枝の一本一本をよく見ると、産毛のような棘がついていることがわかります。

まるでハープみたいな変な生き物「タテゴトカイメン」とは
(画像=コンドロクラディア・リラの枝先 / Credit: MBARI、『ナゾロジー』より引用)

これは海中の獲物を捕らえるためのフックです。

海綿動物のなかでは珍しく、タテゴトカイメンは肉食性であり、小魚や甲殻類といった獲物を捕食することがわかっています。

このフックに小型の獲物が引っ掛かり、タテゴトカイメンは薄い膜で包み込んで、ゆっくりと消化をし始めるのです。

そして、枝の先端の膨らんだ球体は、精莢(せいきょう:精子の凝縮した袋)を作る場所です。

精莢とは一部の動物のオスが持つ生殖器官で、精子を入れたカプセルです。

これが海中に放出され、それを周辺の他のタテゴトカイメンが枝で捕えれば、受精します。

卵の発生領域は枝の中間付近にあり、受精するとこの部分が膨らんで、成熟し始めるといいます。

まるでハープみたいな変な生き物「タテゴトカイメン」とは
(画像=コンドロクラディア・リラ 部位の名称 / Credit: The harp sponge: an extraordinary new species of carnivorous sponge、『ナゾロジー』より引用)

このようにハープ状の枝は、彼らの食事や生殖において重要な役割を持つ器官です。

自ら積極に動くわけではないタテゴトカイメンは、これらをすべて海流の流れ任せて行っています。

そのため、海流にさらされる表面積を増やすため、この不思議な構造を持つようになったと考えられています。

私たちにとっては、神秘的で幻想的な深海の世界。

しかし、実際の深海は資源に乏しく、生物たちにとっては過酷な環境です。

そこで暮らす生物たちには、陸上とはまるで違った特別な構造が必要になっていきます。

狙ったかように個性的なタテゴトカイメンですが、その姿が深海の環境に適応せざるを得なかった自然な結果の一つというのが、実に面白いですね。


参考文献
New carnivorous harp sponge discovered in deep sea

元論文
An extraordinary new carnivorous sponge, Chondrocladia lyra, in the new subgenus Symmetrocladia (Demospongiae, Cladorhizidae), from off of northern California, USA


提供元・ナゾロジー

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