「2019年のときは『決勝に行ければいいな』という気持ちで臨んでいたんですが、その結果優勝することができたんです。今回も気負わずに、2019年と同じような気持ちで大会まで過ごすつもりでいました」

そう語るのはオールジャパン選手権メンズフィジーク40歳以上級172cm超級で優勝した森山健三選手。「メンズフィジーク」とは男性の鍛え上げた肉体美を競う、世界的にも人気の高い競技で、その地区予選を勝ち上がってきた猛者たちが集う各階級ごとの日本一決定戦がオールジャパン選手権。森山選手は2019年で初優勝。昨年はコロナ禍で大会が中止となったが、9月20日に行われた本年度の大会でも同階級を制して見事に2連覇を決めた。

19年度とは異なり、今回は挑戦する側ではなくディフェンディングチャンピオンとしての参戦である。プレッシャーに潰されてコンディションを崩さないよう、あえて前回と同じ心境で試合に臨もうとした。しかし、森山選手は長崎県に在住で、今回の試合の開催地は神戸。コロナ禍の中、わざわざ会社を休んでの出場となる。ワクチン接種は済ませているものの、県をまたいでの移動となるため、息子さんからは「県外行きすぎマン」というあだ名をつけられてしまう始末。しかし、試合まではあくまで平常心で。そんな森山選手に、奥さんが強烈な一言を投げかけてきたという。

「2週間ほど前に『優勝する気がないなら行く必要がないよね』と。その嫁の言葉で燃えるものが出てきました」

心と身体の相互作用というものは医学の世界でもよく語られるところではあるが、以降、トレーニングや減量方法を変えたわけでもないのに「気持ちに身体が反応してきて」仕上がりが日に日によくなっていったとか。

「連覇が難しいオールジャパン選手権で、長崎に住んでいる自分が都会の選手たちと一緒に並んで闘って、その上で勝つことができました。嫁さんの一言に感謝です」

森山選手は19年には世界選手権も制している。40代最後の年となることもあり、今年も11月にスペインでの開催が予定されている世界選手権には挑戦したいとか。「県外行きすぎマン」から「海外行きすぎマン」へ。今年も目指すは世界一である。

取材・文:藤本かずまさ 撮影:中島康介

執筆者:藤本かずまさ
IRONMAN等を中心にトレーニング系メディア、書籍で執筆・編集活動を展開中。好きな言葉は「血中アミノ酸濃度」「同化作用」。株式会社プッシュアップ代表。