まるでヤモリのように、壁や天井に沿って動くロボットが登場しました。
しかし、その張り付く原理は従来の方法と異なります。
カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームは、振動する円盤が生み出す低圧空気の層を利用することで、表面に吸着したまま自由に移動できるロボットの開発に成功しました。
これは垂直に引っ張る力に対しては5N(ニュートン)の荷重まで耐えられるのに、水平な動きにはほとんど抵抗がありません。
この研究の詳細は、5月25日に科学雑誌『Advanced Intelligent Systems』にて発表されています。
空気の薄膜で張り付くロボット
壁に張り付いて移動できるロボットは、建物の検査や探査、清掃などに便利なためいろいろと研究されてきました。
しかし、表面への吸着と表面に沿った移動というものは、基本的に両立しません。
そのため、これまでの研究では、壁に張り付いて移動するためには、複数の接着パッドを持った複雑なロボットが必要となっていました。
けれど、今回の研究で提案されたロボットは、そんな従来の常識を覆すものです。
これは振動ベース接着 (vibration-based adhesion:VBA)と呼ばれる新しい接着能力で、柔軟な円盤が振動することで、表面との間に低圧の空気層を作り出し、それによって壁に張り付くというのです。
ここで発生する低圧空気の層は厚さ1mm未満で、完全に表面にくっつくわけではないため、水平方向に対する摩擦はありません。
そのため、ロボットは壁の表面に張り付いたまま、壁に沿って自由に動き回ることができるのです。
さらに、この吸着は5N近い荷重にまで耐えることができるとのこと。
実験では重さ0.38kgのコーラの缶をロボットに運ばせることにも成功しています。
かなり強い力で吸い付いているように見えますが、このロボットは小型でかなり単純な構造でできています。
その構成は、柔軟なポリエステルの円盤と振動源となるモーター、移動のための車輪やパッテリーだけです。
特に大きなデメリットもなく、自在に壁や天井を移動できるというのはすごい技術です。
今後は、ロボットのサイズと吸着力、移動能力のバランスについて、研究を進めていくとのこと。
ただ、唯一の弱点はこの円盤を振動させる周波数が200Hzで人間の可聴域であることです。
つまり、このロボットは壁に張り付くためにかなりの騒音をたてるのです。
まるで忍者のように天井に張り付くロボットですが、残念ながらこのロボットに隠密行動は難しいようです。
参考文献
Somehow This Robot Sticks to Ceilings by Vibrating a Flexible Disc(spectrum)
元論文
Gas-Lubricated Vibration-Based Adhesion for Robotics
提供元・ナゾロジー
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