人の上に立つキングやクイーンは、象徴的な王冠を身につけて、自らと一般市民を区別します。
このほど、京都大、甲南大、東京大の新たな研究により、キイロヒメアリ(Monomorium triviale)の女王が、これと同じことをベビーのときからしていることが判明しました。
顕微鏡で本種の幼虫を観察したところ、女王アリの姿は、他の働きアリとまったく違い、王冠のような突起が生え出ていたとのこと。
赤ちゃんのときから、女王は特別だったようです。
研究の詳細は、2022年3月3日付で科学雑誌『Zootaxa』に掲載されています。
目次
キイロヒメアリはすべてメスで、オスは存在しない?
突起の予想される「5つの機能」とは
キイロヒメアリはすべてメスで、オスは存在しない?
キイロヒメアリ(M. triviale)は、日本や中国、韓国を原産とする琥珀色のきれいなアリです。
面白いことに、本種の女王アリは、単為生殖によって未受精卵を産むため、子どもを増やすのにオスを必要としません。
実際、今回発表された研究でも、オスの個体はいまだ見つかっておらず、すべてメスであることが明記されています。
そのため、本種のアリは、おもに2つのカテゴリーに分けられます。
「不妊の働きアリ」と「繁殖力のある女王アリ」です。
本研究では、この2タイプのアリの違いを、最も初期のベビーの段階から理解することを目指しました。
そこでチームは、京都市近郊の雑木林からキイロヒメアリの巣をいくつか採取し、未熟なコロニーを実験室内の人工巣に移設。
数種の高解像度顕微鏡を使って、アリの幼虫を観察しました。
女王アリの赤ちゃんは「ドアノブのような突起」を生やす
2つのタイプはともに、成長するにつれて定期的に外骨格を脱ぎ捨て、新しい形態(1齢、2齢などと呼ばれる段階)に変化します。
観察の結果、女王アリも働きアリも最初は長方形の塊をしており、孵化後数日で口器が発達し、体に沿って小さなとげのある毛が生えました。
ところが、最終齢になると、女王アリの赤ちゃんは、働きアリとまったく違う姿に変貌したのです。
他の働きアリが細かな毛を生やしているのに対し、女王には毛がなく、代わりにドアノブのような出っぱりを生やしていました。
正式には「円形小突起(tubercles)」と呼ばれ、全部で37個が確認されています。
その姿は、まるでエイリアンのぬいぐるみのように可愛らしいものでした。
この特徴の違いで、大人の働きアリは、のちの女王を他の赤ちゃんと区別していると考えられます。
また、こうした女王特有の構造は、日本で見られる近縁種はもちろん、一般的なアリでも見つかっていません。
では、女王アリの突起は何のためにあるのでしょうか?
突起の予想される「5つの機能」とは
突起の内部を調べてみると、皮膚とキューティクルが伸びてできており、その厚さは他の体組織の約2倍もありました。
(キューティクル:クチクラとも。表皮を構成する細胞がその外側に分泌することで生じる、丈夫な膜のこと。多くの生物において、体表を保護する役割を果たす)
しかし突起には、筋肉や管、特殊な組織は含まれていませんでした。
チームは1976年に発表された論文から、さまざまなアリの幼虫の形態を調べた結果、突起の役割には以下の5つの可能性があると推測しました。
・体を支える
・巣の天井や壁にしがみつく
・女王が他の幼虫による共食い攻撃から身を守る
・体表面に餌を固定する
・幼虫間で餌を受けわたす
これらはあくまでも仮説に過ぎず、確かな目的はまだわかっていません。
しかし、本研究の成果は、幼虫が複雑なアリ社会においてどんな役割を果たすのかを理解するヒントとなるでしょう。
参考文献
Larva ant queen looks like an alien doll in trippy new microscope images
元論文
Morphology of immatures of the thelytokous ant, Monomorium triviale Wheeler (Formicidae: Myrmicinae: Solenopsidini) with descriptions of the extraordinary last-instar queen larvae
提供元・ナゾロジー
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