忙しいストレス社会において、心と体をリラックスさせることはとても大切です。
森林浴で心身の疲労を回復したいと感じているかもしれません。
しかし、コロナ禍の影響や都心部での生活により、実際に森林へと足を運ぶのが難しい人は多いでしょう。
そこで森林総合研究所に所属する高山 範理(たかやま のりまさ)氏ら研究チームは、屋内に森林の風景・音・香りを再現した「デジタル森林浴」の効果を調査。
その結果、デジタル森林浴には、実際の森林浴に近いレベルで生理・心理的な疲労回復効果があると判明しました。
研究の詳細は、2022年1月21日付の学術誌『International Journal of Environmental Research and Public Health』に掲載されています。
「デジタル森林浴」なら都心部でもリラックスできる
「デジタル森林浴」とは、室内にデジタルの森林をつくりだし、そこで一定時間過ごすというもの。
研究チームによって開発されたデジタル森林浴では、室内の壁や天井に森林の映像が映し出されました。
また森林の音をBGMとして流し、植物からつくられたアロマオイルによって森林の香りを充満させました。
本物の植物を利用しないので、どこでも簡単に森林を再現できる方法だと言えますね。
では、このデジタル森林浴には、どれほどの効果があるのでしょうか?
実験には、公募で選ばれた25名(男性12名、女性13名)が参加。
デジタル森林浴を20分ほど体験した前後で、生理的な7つの項目(血圧や心拍数、副交感神経活動など)と心理状態がどのように変化したか調査しました。
その結果、デジタル森林浴の体験中に、副交感神経活動の上昇と心拍数の低下が確認できました。
副交感神経とは自律神経を構成する神経の1つであり、身体の活動性を下げてリラックスさせたり回復モードにさせたりします。
例えば、食事中や食事後、睡眠中には副交感神経が優位に働いています。
デジタル森林浴でこの活動が上昇したということは、デジタルであっても生理的なリラックス・回復効果が認められた、ということなのです。
またデジタル森林浴の体験後では、参加者たちのネガティブな感情(緊張、不安、抑うつ、怒り、疲労)も低下しました。
20分ほどのデジタル森林浴には、心理的な回復効果もあったのです。
さらに研究チームは、過去の実験で提出された「実際の森林浴の効果」と今回の「デジタル森林浴の効果」を比較しました。
その結果、デジタル森林浴の回復効果は、実際の森林浴の回復効果とほぼ同程度だと判明。
たとえデジタルだったとしても、私たちが望む「森林浴の効果」がかなり得られると分かったのです。
今回の研究結果は、今後のデジタル森林浴の活用を促すものとなるでしょう。
都市部、病院・高齢者医療施設に設置するなら、それらの地域や施設で不足している「リラックスの場」を提供できるはずです。
提供元・ナゾロジー
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