マウスも次元の壁を越えられるようです。
米国フロリダ・アトランティック大学(FAU)の研究により、マウスは、二次元の画像(りんごの写真)を三次元の物体(実際のりんご)と結び付けられる、ことが判明しました。
画像と物体の関連付けは、これまで霊長類や一部の鳥のみが持つと考えられています。
しかし、そもそもどうしてヒトや鳥、そしてマウスは、平面に描かれた画像と三次元の物体を同じものとして認識できるのでしょうか?
一見すると下らない疑問に思えますが、そこには脳の神秘が秘められているのです。
研究の詳細は、2022年3月9日付で科学雑誌『Scientific Reports』に掲載されています。
マウスは二次元の画像と三次元の物体に「同等性」を感じられる!
画像に写っているリンゴと実際のリンゴ。
私たちヒトは、両者を苦も無く同じ「リンゴ」であると認識できます。
これは私たちに、画像と物体の「同等性」を感じる能力があるからです。
一見すると何気ない能力のように思えますが、この能力には、画像から得られた視覚情報をまったく異なる三次元の物体に当てはめるという、複雑なプロセスを実行しなければなりません。
そのため、同等性を感じる能力は、高い知能を持つとされる霊長類や一部の鳥においてのみ、確認されていました。
つまり、二次元と三次元を同じものと考える能力は高い知能の証だと考えられていたのです。
一方で、代表的な実験動物であるマウスにおいては、画像と物体に同等性を感じる能力はないと考えられていました。
マウス程度の知能では、画像から情報を抽出して現実の物体に当てはめる「高度」な技は不可能であると思われていたからです。
しかし今回、フロリダ・アトランティック大学の研究チームは、この常識に異を唱えることになりました。
研究者たちが利用したのは「マウスの本能」でした。
マウスには、新しい存在を積極的に調査しようとする本能があります。
そこでチームは、マウスにチェスの駒やレゴブロックなどの画像を提示し、次に画像と同じ物体と、別の新しい物体の両方をケージに入れました。
結果、マウスは画像で表示された物体よりも、まったく別の新しい物体に対して、より積極的な探査を行ったのです。
これはマウスが、画像に「慣れ」を起こすと同時に、画像と同じ本物の物体に対しても、すでに「慣れ」を生じさせていることを示します。
また、画像に写っている対象の撮影角度や構図、色や輝度、さらにはリアリズムを変更して、ぼかしやモザイクを入れた場合でも「慣れ」効果が発生し、反対に、画像で示されていない方の物体を、より積極的に探査したのです。
これらの結果はマウスにも、画像と物体の「同等性」を認識する能力(画像を一般化して物体にあてはめる能力)があることを示唆します。
そうなると気になるのが、同等性を感じているときの脳内の様子です。
二次元と三次元は、いったいどんな回路で結び付けられているのでしょうか?
マウス脳の「海馬を不活性化」すると同等性を感じなくなった
脳は二次元的な情報をどうやって三次元の物体に結び付けているのか?
謎を探るべく研究チームは、マウスの頭蓋骨に穴を開け、記憶をつかさどる海馬の「CA1ニューロン」に対して、脳細胞を不活性化させる薬「ムシモール」を投与しました。
(※ムシモールは、ベニテングダケなどにも含まれる毒素であり、人間の味覚にはうま味として感じられます)
すると先ほどと同じ実験をしても、マウスは画像と物体の同等性を認識できなくなったのです。
この結果は、マウスが画像と物体に同等性を感じる仕組みは、私たちヒトと非常に似ており、記憶にある画像情報を高度な処理によって、物体に当てはめていることを示します。
つまり、私たちが画像と物体を結びつけるのと同じような仕組みで、マウスも両者の結びつけを行っていたのです。
研究者たちは、同様の仕組みが哺乳類全体に存在する可能性があると考えており、マウスを用いることでヒトの視覚と認識の仕組みを解明できると述べています。
参考文献
PHOTO OR REAL THING? MICE CAN INHERENTLY RECALL AND TELL THEM APART
元論文
Mice recognize 3D objects from recalled 2D pictures, support for picture-object equivalence
提供元・ナゾロジー
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