社会性を制御する方法が判明しました。
米国デューク大学(Duke University)で行われた研究によれば、マウスの脳の8カ所の電気活動を測定することにより、社会性の源となる脳回路と制御コードを発見した、とのこと。
また発見された脳回路を光で強制的に活性化することで、マウスの社会性を変更し、他のマウスに対する友好度を制御することにも成功しました。
同様の回路は人間にもある可能性が高く、上手く制御すれば、嫌いな相手を好きにさせるなど、コミュニケーションの円滑化が実現するでしょう。
研究内容の詳細は2022年3月15日に『Neuron』にて掲載されています。
目次
脳の8カ所に電極を刺し込む
嫌いな相手でも好きになっちゃう
脳の8カ所に電極を刺し込む
意外かもしれませんが、マウスは高い社会性を持つ生き物です。
マウスも人間と同じように仲間意識を持ち、さらには好きな相手と嫌いな相手を認識して、行動パターンを大きく変えます。
そして仲のいい個体同士は積極的に体を寄せ合ったり助け合ったりする一方で、嫌いな相手や見知らぬ相手とは距離を置こうとします。
しかし動物の社会性が、どのような脳活動によって引き起こされているかは、まだ詳しくわかっていません。
そこで今回、デューク大学の研究者たちはマウスの脳の8カ所に電極を刺し込み、コミュニケーション中の脳活動を詳細に記録。
そしてAIを用いてデータを分析することで、マウスの社会性の動機をうみだす脳回路(コミュニケーション回路)と、社会性や友好的な態度が現れるときの神経活動パターン(コード)を発見しました。
このコミュニケーション回路の存在は健康なマウスではどの個体でも普遍的に存在しており一般に活性度が高いほど社会性が高いことが判明します。
また回路の活性度はマウス同士の好感度にも影響を与えていました。
研究者たちが回路の活性度をもとに予測したマウスたちの交友関係が、現実の交友関係と一致していたのです。
またコードの再現性も非常に高く、研究者たちはコードを読み取るだけでマウスたちの社会的行動の開始と終わり(挨拶やじゃれ合いの期間)を判断することが可能になりました。
この結果は、マウスの社会性や友好度が特定の脳回路(コミュニケーション回路)や特定の神経活動パターン(コード)によって決められていることを示します。
ならば、この「コミュニケーション回路」を強制的に活性化した場合、マウスはどうなってしまうのでしょうか?
嫌いな相手でも好きになっちゃう
「コミュニケーション回路」を強制的に活性化するとどうなるか?
魅力的な謎を解明するため研究者たちは、マウスの脳を光に反応するように遺伝操作し、
頭蓋骨に穴を開けて光ファイバーをコミュ回路の位置まで刺し込みました。
以前は脳回路を活性化する方法には電極が用いられていましたが、最近では遺伝操作と光による刺激を組み合わせた方法(光遺伝)が用いられるようになっています。
(※脳回路の活動の「読み取り」には依然として電極が用いられていますが刺激(入力)には光遺伝が主流になりはじめています)
準備が整うと、研究者たちはスイッチを起動してマウスのコミュニケーション回路に光による活性化信号(10Hz)を入力しました。
するとマウスは興味を示さなかった相手(嫌いな相手)に対しても体を寄せて友好的な態度をとるようになりました。
この結果は、コミュニケーション回路を活性化することで、相手に対する態度も操作できることを示します。