GIGAスクールは「普及促進」から「利活用」のフェーズに移っているらしい。

学齢期のお子さんがいらっしゃらない方にはなんのことかわからないかもしれないが、GIGAスクール構想とは以下のことである。
全国の児童・生徒1人に1台のコンピューターと高速ネットワークを整備する文部科学省の取り組み。新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、計画を前倒しし、2020年度内に小中学校への端末導入がほぼ完了する見込みだ。(今さら聞けない「GIGAスクール構想」とは)
ようするに、端末を導入してなにをしたいのかまで考えていなかったのである。あったのかもしれないが、少なくとも現場の教員には伝わっていない。
GIGAスクールの進展とこれからという記事に進捗状況や今後の見通しが書かれている。
要約すると、「端末は配り終わったが活用されていない。だから課題は利活用」というように見える。
私立学校はこんなことになる前から、端末は持っていたわけだが、とうぜんICTを管理・調整する専門家はいる。ICTに素人である教員に管理させるようなことはしていない。
端末だけ与えて、教員で管理しているから、逆に業務が増えている。子供のトラブルもしかり。親からもタブレットでYouTubeばかり見ていてどうにかしてほしいという相談を受けた教員もいる。ここで、それは家庭のしつけが・・・と考えてしまうのは現場がわかっていない人の感覚である。(教員でも家庭のしつけの責任に帰してしまう人がまれにいるが、そういう人は現在の教職には向いていない。)
また、タブレットいじめ自殺で有名になった東京都町田市の小学校では、IDは児童の所属学級と出席番号を組み合わせたもので、パスワードは123456789にしていたという点が叩かれているが、IDパスワードの管理は担任にとってかなり負担だ。ほとんど教委は組織的に管理する手段を考えていない。(学級担任でないなどの理由で余裕のある教員もいることはいるが、そういう教員は仕事を任せられないからこそ余裕があるのである。)
残念なことだ。
あるクラスの子供は始終端末を勝手に見ている。もちろん授業とは関係ない。学級崩壊の要因を増やしているとしか思えない。子供に命令すれば言うことを聞くと思っている方もいるかもしれないが、学級運営とはそう簡単なことではない。
少なくとも現行の日本の学校のやり方を続ける限り、GIGAスクールで補助できるのはうわべの部分だ。今までどおり現場の教員に全部投げすれば万事うまくいくだろうという楽観主義が招いた悲劇である。

現場のオペレーションはかつてなく難しくなっている。日本人やその家庭が孤立化・アトム化しているのだからとうぜんの帰結だ。
文科省が現場を知らなさすぎるので、こんなちぐはぐな政策になるし、そもそも政策に明確な目的がない。政策立案者の頭のなかには、教員と児童生徒がタブレット片手になにかいいかんじで話し合いとか学習とかをしているくらいの画しかないのだろう。
そして、タブレットやもろもろの整備にいくらかけたのだろうか。政府が発表した2019年末での関連予算は「1人1台端末」の整備費用を中心に4600億円超を計上していたが、当然この時点から肥大化しているし、肥大化し続けるのだろう。文科省の要求は焼け太りとしか言いようがない。
結局この負担は将来、現在の子供たちに返ってくるのである。
教育のICT化は世界の趨勢であろう。でも、いくらなんでもこんな雑すぎる導入の仕方はなかったのではないだろうか。ゆとり教育のほうが余程ていねいに導入されたのではないだろうか。
ウクライナではロシア軍がプーチンの影響で軍事的に非合理な決定を重ねているが、日本でも政治家と文科省の間で同じように非合理な決定が繰り返されている。
※ゆとり教育も総括されていない。成功か大成功かしかない行政は、今回のGIGAスクールも総括することがないまま終わるのだろう。
文・中沢 良平/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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