夕方に大量の鳥たちが、ヤブ蚊のように密集して飛んでいるのを見たことがあるでしょうか?
これは最大で75万羽ものムクドリが一堂に会し、行う密集飛行で「マーマレーション」と呼ばれています。
その様は、まるで細かな粒子で描かれる巨大な竜巻や大波のようです。
広がっては集まり、分裂してはまた融合する。数百メートル上空まで上昇したかと思うと、地面に激突しそうなほど急降下する。
絶えず形を変えるその光景は、圧巻であると同時に、なにか恐怖すら抱かせます。
一体ムクドリは、何のためにこの不思議な密集飛行「マーマレーション」を行うのでしょうか。
目次
ムクドリたちの謎の密集飛行「マーマレーション」の目的とは?
大群がまとまっているのに指揮官はいない不思議
ムクドリたちの謎の密集飛行「マーマレーション」の目的とは?
まるでヤブ蚊の群れのようですが、これは体長約24cmもあるムクドリたちの群れです。
彼らはスズメとハトの中間くらいのサイズで、時速80kmものスピードで空を飛びます。
多くの鳥たちは、餌を探すときや移動するときに群れを作ります。
しかし、上の画像で示したような「マーマレーション』と呼ばれるムクドリたちの密集飛行はそんなわかりやすい目的を持っていません。
この特殊な密集飛行が見られる時期は、秋から早春にかけて。日没の1時間ほど前に、ムクドリたちの寝る時間が近づくと形成されます。
だいたい45分ほど空を飛びまわった後、いっせいに寝ぐらに戻っていきます。
ちなみに「マーマレーション」という名称は、数万〜数十万のムクドリたちの低く柔らかな”ざわめきの音(murmur)”にちなんで名づけられています。
ただざわめきと言ってもそれはかなりの騒音で、地域の人たちにとっては、鳥たちが落とす大量のフンと共に、騒音も悩みの種になっています。
では、なぜムクドリはマーマレーションを行うのでしょう?
よく見る渡り鳥のV字フォーメーションとは違い、彼らの密集飛行には空気力学的なメリットはありません。
そもそも移動を目的にした行動ではないことから、これは仲間たちに対するなんらかのパフォーマンスと考えるのが妥当でしょう。
有望な説は、この行動が視覚的に他のムクドリを呼び集め、集団で寝ぐらに帰るよう誘導するため、とする考えです。
ムクドリは身を寄せあうことで仲間と体温を共有し、寒い夜をやり過ごすと言われています。
つまり、マーマレーションは寒い夜を乗り越えるため、離散していた仲間たちをなるべく一所に集め、一緒に夜を過ごすための行動の可能性があるのです。
そう考えると、これが秋から早春にかけての寒い時期によく見られる理由も納得できます。
それから、大群で集まることで、フクロウやタカといった天敵から生存できる確率も高まると指摘されています。
ムクドリの群れが多ければ多いほど、捕食者は的を絞りにくくなります。
さらに、それぞれのムクドリは一番危険な外側から群れの内側に移動しようとするので、常に竜巻や波のような変化をします。
これにより、捕食者の注意は散漫になりますし、ヘタにぶつかると自分が痛手を負いかねません。
こうした行動は海の小さい魚たちにもよく見られるものです。確かにその動きはにているかもしれません。
だとすればまさに、ムクドリたちは”空のスイミー”と言えるでしょう。
なぜするのかに加えて、もう1つ不思議なのは、このマーマレーションには群体を指揮するようなリーダーがいないということです。
彼らはどうやって集団の動きを制御しているのでしょうか?
大群がまとまっているのに指揮官はいない不思議
この大群のムクドリたちは、誰かに指揮されて飛んでいるわけではありません。
特に計画的に行動しているわけではないのです。
ではどうして彼らはまとまって飛ぶことができるのでしょう?
近年の研究によると、ムクドリたちは周囲の動きを観察して、行動を調整していることがわかってきています。
たとえば、マーマレーションの映像を分析した専門家によると、ムクドリは地上から見た印象ほどは密集しておらず、実際は自由に動けるスペースが十分確保されているようです。
また、横方向より前後のスペースが広く取られており、飛ぶ方向に対して仲間とぶつからないように距離を調整していると見られます。
ただ、彼らの群体行動については、未だ完全に解明できているわけではありません。
先月メキシコでは、マーマレーンション中のムクドリたちが地面に激突するというショッキングな映像が捉えられました。
何が影響してムクドリがこのような事故を起こしたのかは、明らかではありません。
しかし、集団を指揮して全体の動きを管理する存在がいないことはここからもわかると思います。
彼らは周りの動きに従って飛んでいるため、急降下から復帰するタイミングを見誤ると群れ全体が地面に激突する惨事になってしまうのでしょう。
マーマレーションのような集団行動は、ミツバチやコウモリ、魚の群れにも見られます。
これについて、生物学者だけでなく、数学者やコンピューター科学者も3Dモデルなどを用いて、群れの動きの解明に乗り出しています。
もちろん、好奇心がマーマレーション研究の原動力となっていますが、一方で、ムクドリがぶつからずに群体で飛行できるメカニズムの解明には、実用的な側面もあります。
たとえば、密集した状態で互いにぶつかることなく移動できるシステムは、未来の自律走行車の開発に役立つかもしれません。
私たちの身近な生物の日常的な行動の中にも、未だによくわからないことがたくさんあります。
ムクドリたちのマーマレーションの理由は、今回紹介した説の中にあるかもしれません。しかし、本当は全然別の理由なのかもしれません。
参考文献
Why do flocks of birds swoop and swirl together in the sky? A biologist explains the science of murmurations
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功