先日、発見された2時間後に小惑星が地球に衝突したというニュースがありました。

これに衝撃を受けた人も多いようですが、実のところNASAの集計では、こうした小さな小惑星の地球衝突はだいたい10カ月間隔で発生しており、非常にありふれた出来事です。

これまでのところ、大きく報道されることがなかったのは、落下地点にほとんど人が住んでいなかったためで、単に運がよかっただけです。

今後同様に危険な小惑星が都市部上空に落ちてくるとわかったとき、何かできることはあるのでしょうか?

この中で有望な計画の1つが、ショットガンで小惑星を破砕するというものです。

目次

  1. 実は地球にすごくいっぱい落ちている小惑星
  2. 巨大散弾銃と大気圏を利用した防衛構想

実は地球にすごくいっぱい落ちている小惑星

恐竜たちが巨大小惑星の衝突で滅んだように、地球にはたびたび壊滅的な小惑星がやってきます。

そのためNASAは地球近傍天体(NEO)を観測していて、これを防衛するための計画(DART)を立てています。

しかし、これは人類を滅亡させる恐れがあるような数十キロメートル規模の巨大な小惑星の話であって、100メートル以下のサイズの小惑星については、暗すぎるため地球衝突の数時間前から数カ月前というタイミングでないと発見することができません。

そしてほとんどの小惑星は見つけることさえできないまま、地球に落下しています。

先日、2022年3月11日に発見された小惑星「2022 EB5」が、その2時間後に地球に衝突したというニュースを紹介しました。

これは衝突前に発見できた小惑星の観測史上5番目の例です。

小惑星なんて滅多に落ちてこないから、そんなもんなんだろう、と思った人もいるかもしれません。

しかし、実際そんなことはありません。小惑星は予想以上に大量に地球に落ちているのです。

下の画像はNASAがまとめた1988年4月15日から2022年1月11日までに報告されている小惑星落下位置とその爆発規模を示したマップです。

地球に衝突した小惑星のすべてではなく、あくまで報告された件数に過ぎない点に注意してください。

地球に衝突している「戦術核レベルの小惑星」 実はすごくたくさんあった
(画像=NASAが報告している火球イベントの分布マップ / Credit: Alan B. Chamberlin (JPL/Caltech)、『ナゾロジー』より 引用)

先日の小惑星「2022 EB5」はこのマップ上に集計されていませんが、この小惑星の爆発はTNT換算で3kt相当のエネルギーだったとされています。

これは上記マップ上で主に緑色の円で示されているのが、同規模の小惑星爆発です。

黄色になるとTNT換算で15kt、オレンジだと30ktという規模になります。

もっとも目立つ赤い円は、近年きちんと観測された中ではもっとも規模が大きかった2013年ロシアのチェリャビンスクに落下した隕石で、その爆発エネルギーはTNT換算で500ktだったとされています。

TNT換算と言われても今ひとつイメージできない人向けに説明するならば、2020年に多くの人が動画でも目撃したレバノン首都ベイルートの港爆発事件はTNT1.1kt相当だったと推定されています。また広島型原爆15kt相当だったと推定されています。

地球に衝突している「戦術核レベルの小惑星」 実はすごくたくさんあった
(画像=記憶に新しい2020年のベイルート港爆発事件の現場 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

つまりチェリャビンスク隕石は広島型原爆の30倍に相当する爆発エネルギーだったと推定されているのです。

それだけの爆発でも壊滅的な被害になっていないのは、小さな小惑星は非常に高高度で空中爆発してしまうためです。

チェリャビンスク隕石のサイズは15m程度だったと考えられており、上空15km以上の高高度で空中爆発したため、地上に届いたのは衝撃波の一部に過ぎなかったのです。

それでも、地上では衝撃波でビルの窓ガラスが割れる、屋根が壊れるなどの被害が報告されており、また爆発の100km圏内では太陽より明るい輝きが確認され屋外にいた人がその熱線(紫外線)で火傷したという報告もされています。

地球に衝突している「戦術核レベルの小惑星」 実はすごくたくさんあった
(画像=チェリャビンスク隕石の落下時確認された雲と、地上に及ぼした被害 / Credit:Wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

NASAがまとめたデータに対して、驚くほど小惑星落下に関する報道が少ないのは、単にそれが人のいる地域に落ちなかったからです。

地球表面の多くは海であり、人が大勢住んでいる地域も限定されているため、これまでのところ近代的な都市の真上に小惑星が落下したことはないのです。

広範囲で樹木がなぎ倒されたツングースカ大爆発も、このチェリャビンスク隕石の分析から60m規模の小惑星の空中爆発だっただろうと推定されていますが、これも人里離れた遠隔地で起きたものです。

NASAなどの宇宙機関は、これまで小さい小惑星で大きな被害が出なかったのは、単に運がよかっただけだと考えています。

もしツングースカ大爆発レベルの事象が、近代都市の上空で起きた場合、その被害は計り知れません。

しかし、先日の小惑星「2022 EB5」のニュースでも分かる通り、数メートルから数十メートル規模の小惑星は、地球から離れた位置ではほとんど見ることができないため、発見されてから数時間程度で地球に衝突する可能性が高いのです。

では、このような状況に対して、我々は一体どうしたら良いのでしょうか?

巨大散弾銃と大気圏を利用した防衛構想

NASAはこうした問題に対して、発見から数日から数時間程度で地球に衝突する小惑星に対処する方法を募集しています。

この中で現在有望な計画の1つが、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の研究者フィリップ・ルビン(Philip Lubin)氏によって提案されている「Pi – Terminal Defense for Humanity」という防御計画です。

Piとは「PulverizeIt(破砕)」の略で、つまり危険な小惑星を破壊してしまうという計画です。

ほとんどの小さな小惑星が地球で問題にならない理由の1つは、それが地上に到達する前に燃え尽きてしまうからです。

大きい欠片になると燃え尽きずに地上に到達することになりますが、これも大気摩擦によって減速するため、地上にぶつかっても壊滅的な問題にはなりません。

数メートル規模の発見が難しい小惑星は、それよりさらに細かく砕いてしまえば、地球には特に被害を及ぼさないただの流れ星になるのです。

PIシステムでは100kgの質量を持つ貫通ロッド(小さな棒)を10✕10でばらまく散弾ミサイルを打ち込み小さな小惑星を粉砕します。

地球に衝突している「戦術核レベルの小惑星」 実はすごくたくさんあった
(画像=PIシステムの概略図 / Credit:Philip Lubin,PI-Terminal Planetary Defense、『ナゾロジー』より 引用)

ルビン氏は、このシステムは軌道上、または月面基地に配置するべきだろうと話します。

月面基地は特に有望な配置場所であり、大気が薄い月面では、赤外線や光学機器で小惑星の検出が容易になる他、重力が小さいため驚異が特定された場合、数分以内にこの散弾ミサイルを打ち上げることが可能になります。

そうなれば、ツングースカ大爆発やチェリャビンスク隕石のような危険な小惑星による地上の被害を未然に防ぐことができるようになるでしょう。

このPiシステムは、NASA先端概念研究所(NIAC)プログラムのフェーズ1に選ばれています。

まだ構想の段階とは言え、たとえ数時間後に衝突する小惑星でも対処できる時代は近いようです。

参考文献
PI-Terminal Planetary Defense
Space shotgun could destroy dangerous asteroids just hours before impact

提供元・ナゾロジー

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