大気中のCO2(二酸化炭素)の増加は、地球温暖化の原因となっています。

では、それら余分なCO2を回収して、何か別のものに役立てる方法はあるのでしょうか?

米国の人工ダイヤモンド製造スタートアップ企業「エーテル(Aether)」は、空気中の二酸化炭素を回収してダイヤモンドをつくることに成功したと報告しています。

しかも、この方法で生み出されたダイヤモンドは、採掘された天然ダイヤモンドの組成と全く同じとのこと。

ちょっと怪しい話にも聞こえますが、事実なら現代の環境問題に対処する非常に斬新な提案でしょう。

目次
環境にやさしいダイヤモンドとは?
空気中のCO2からダイヤモンドを生み出す技術は、現代の錬金術になるのか?

環境にやさしいダイヤモンドとは?

現代の錬金術!? 大気中のCO2を回収してダイヤモンドを作るのに成功
(画像=ダイヤモンドは魅力的だが、環境への悪影響が懸念されている / Credit:Joshua Kissi(Aether)、『ナゾロジー』より引用)

天然ダイヤモンドは採掘によって得られるため、環境への悪影響が懸念されてきました。

では、人工ダイヤモンドは環境にやさしいのでしょうか?

現在、人工ダイヤモンドをつくる方法はいくつか存在しています。

例えば、天然ダイヤモンドがつくられる環境を人工的に再現した「HPHT(高温高圧法)」があります。

また、「CVD(化学蒸着法)」と言って、メタンガスなど炭素を主成分とする気体を利用して高温低圧の環境でつくる方法もあります。

これらの方法を使うと地球を掘らずに済みますが、製造にはエネルギーが必要です。

しかもHPHTでは、製造の際に多くのCO2を排出します。

現代の錬金術!? 大気中のCO2を回収してダイヤモンドを作るのに成功
(画像=もっと環境にやさしい人工ダイヤモンドが求められている / Credit:Aether、『ナゾロジー』より引用)

そのため、「天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンドでは、どちらの方が環境にやさしいのか?」という疑問に対して、専門家たちでも意見が分かれるようです。

そこでエーテル社は、「もっと環境にやさしい人工ダイヤモンドをつくりたい」と考えました。

彼らは、地球温暖化の原因にもなっている大気中のCO2に目を付け、それらを回収して、ダイヤモンドに変換しようと考えたのです。

空気中のCO2からダイヤモンドを生み出す技術は、現代の錬金術になるのか?

現代の錬金術!? 大気中のCO2を回収してダイヤモンドを作るのに成功
(画像=空気からつくられたダイヤモンド / Credit:Aether、『ナゾロジー』より引用)

エーテル社が新しく生み出した人工ダイヤモンドは、空気中のCO2からつくられています。

この製造方法は、4つのステップから成り立っています。

1つ目のステップでは、空気中のCO2を直接回収。

これにはスイスの企業が開発した新しい技術が利用されているとのこと。

2つ目のステップでは、抽出したCO2を特殊な装置でダイヤモンドに合成します。

従来の「CVD(化学蒸着法)」ではメタンガスを利用しますが、新しい装置では、CO2から直接ダイヤモンドの小さな結晶を生み出せるのです。

3つ目のステップは、「ダイヤモンドの成長」であり、エーテル社は、「100%クリーンなエネルギーでダイヤモンドを成長させられる」と主張しています。

そして4つ目のステップでは、「専門家によるカット・研磨」が行われます。

空気中のCO2が最終的に宝石へと変化するのです。

現代の錬金術!? 大気中のCO2を回収してダイヤモンドを作るのに成功
(画像=エーテル社のジュエリー / Credit:Aether、『ナゾロジー』より引用)

しかも組成は天然ダイヤモンドと全く同じとのことで、エーテル社が提供する写真を見る限り、従来のダイヤモンドと遜色ないように思えます。

さてエーテル社は、これら4つのステップにおける詳しい製法と製造コストを明らかにしていません。

しかし、天然ダイヤモンドが宝石になるまでのプロセスと比べると、エネルギー消費が半分になり、1カラットあたり約577リットルの水を節約できるとのこと。

また「人工ダイヤモンドが1カラット売れるごとに、大気中からは20トンものCO2が排除される」とも主張しています。

しかし、こうした新しいエコを謳う技術では、実際消費されるCO2よりも排出するCO2の方が多かったり、コスト的にはまった見合っていない場合が多いため、注意が必要です。

実際の製法などが企業秘密のため、どこまで真に受けてよいのかは現状判断が難しいですが、これが環境問題に対処する方法として、非常にユニークな新しい切り口であることは確かです。

本当にCO2を削減しつつ人工ダイヤモンドが作れるのだとすれば、温室効果ガス削減に積極的になる企業が増えるかもしれません。

空気からつくられた「環境にやさしいダイヤモンド」は、既に販売されているとのこと。

温暖化問題を解決しつつ、価値ある宝石を生み出す都合のいい技術は、今後のスタンダードになっていくのでしょうか。


参考文献

Diamonds Created Out Of Thin Air Sounds Like Magic. Aether Is Doing It.

Diamonds are created from THIN AIR: Startup draws carbon dioxide from the atmosphere to make stunning gems that are physically and chemically identical to those that are mined


提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功