日本の海が秘める「ブルーエコノミー」の可能性

河本 なるほど、SDGsと投資に関してかなり整理できました。僕はこれまで、ダイビングを通じて海での仕事をしてきました。これからもその仕事に夢を持って取り組んでいきたい。だからこそ、長期的に成長していくことが重要だと改めて感じていますし、。日本の海の魅力について、イメージチェンジしてもらいたいと思っています。

今までの日本って、海の仕事、海の魅力って話になると水産の方に寄りがちだったんですけど、これからはアクティビティやレジャーの方に流れがいくと思っていて。たとえば、他の国と比べてもサンゴの状況もいいんですね。また、黒潮が入ってることから透明度も素晴らしいわけです。

そこに回遊魚も流れてきて。そのような海洋資源をうまく利用し、レジャーにお金を集めていくには、僕らはどのようなPRをしたらいいのか。また、どんなことを伝えていったてらいいのでしょうか?

SDGsとESG投資、そしてダイビングとの関係性とは? 吉高まり×河本雄太 [入門編]
(画像=『オーシャナ』より引用)

吉高 海洋資源の活用によってどのように雇用を生むかという課題に応える「ブルーエコノミー」には、海洋資源をどう保存し活用していくか、そこにはマリン観光事業も含まれています。

河本 「ブルーエコノミー」って新しい言葉に聞こえますが、まさに僕たちの活動はそのど真ん中にいると感じています。なぜなら、マリン観光事業を長期的に伸ばすための経験をダイバーは持っているから。だからこそ、ビジネスチャンスもあると思っているわけです。そこで気になってくるのはやはり、地球環境からの生じるリスクですね。

以前は、台風って日本の南で発生して、列島を縦断して北に抜けていくというのがセオリーだったと思うんですね。それがここ7、8年は日本列島に沿って関東にも上陸するようになり、さらに一昨年くらいには、関東から戻って関西に上陸するようなことが現実におきはじめています。

僕らのビジネスでいうと、こういう台風が来たらクローズだけどこれならいけるよね、といった感じでビジネス面で予測していたのがまるっきり通用しないようになってきていて。気候変動によって起こる台風の大きさや時期、そして数が変化してきているのは、投資家としてリスクが大きくなっているということなんでしょうか。

吉高 先ほどもいいましたが、気候変動は投資家の最も高い関心事項です。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)というのがあります。2015年のG20で開かれた、各国の財務大臣が集う金融安定理事会で、気候変動が金融システムの安定を脅かす、リーマンショックなみのリスクであると認識され、金融機関に対し投融資先の気候変動リスクに関して把握してもらうためのチームができたんですね。

その理由は、世界で甚大化した自然災害が多発していて、保険会社の支払額が莫大になり、万が一にでも保険会社が潰れたらドミノ倒し的に金融システムが不安定になるからなんです。気候変動に関するリスクは、勿論、脱炭素社会に向けて起きるリスク(石炭火力に頼る産業の衰退や炭素税など)もありますが、すでに気温が上昇し異常気象のため自然のバランスが崩れることにより資源循環のルールが変わってきました。海洋も勿論影響を受けています。だからこそ、ブルーエコノミーという言葉が出てきたのではないでしょうか。

河本 20年前にダイビングを始めた時には、ブルーカーボンや藻場に二酸化炭素を吸収させるなんてことは、ほんの1ミリすら考えていなかったわけですよ。だけど、海に潜った時に目に見えている魚が変化していくと、こんな大きな課題に繋がっていたのかということを肌で感じ、ここ数年でようやく気付いてきまして。

しかも僕らはこれを海の中の問題としてだけ考えていましたけど、日本で言うと人口減少であったり、またそれを解決する人もいなくなっているのが加速している現状も同じことだなと感じています。

だからこそ、いま地方創生が必要なんです。オーシャナとしては、そこを伝えるだけじゃなく、解決もする為に現場にも入っていくことを日々考えています。このような海側の人間の活動に対し、長期的な投資をしてくれる可能性って今後広がってくるんでしょうか。

吉高 いま企業側もそのような情報にアンテナを張るようになってきてはいます。SDGsに関する成長戦略のアイディアを自分たちだけでは考えるのには限界もあるからです。ただし、そこで重要になってくるのが、ストーリーだと思います。

これまで、日本企業は、良いことをして儲けるということを正面で語ることは少なかったけれど、今までコストして見られたものが、将来の成長に対する先行投資であり、それをストーリーに載せて語ることにより、これで成長するんだと投資家などのステークホルダーに理解してもらうのです。そういう世の中になってきたんだと認識するマインドセットが求められる時代に突入していると思います。

河本 やっぱり世界的な気候変動をはじめとした環境の変化や海洋ゴミ問題など、自然が破壊されていく要素をなくしていくために、ある種の産業革命的なことが起こっているとも考えられるのですかね。そのきっかけにダイバーがなれると嬉しいです。

吉高 いま、ここで人類の意識が変わっていかないと、地球はとんでもない状況になり、今後、経済維持はしていけないと思います。世界の国々が今の日本と同様の生活をすれば、地球は2.9個もいると言われているんですよ。

河本 いまの子どもたちに、よりよい環境や美しい海を残していくために、投資的な観点からなにかアドバイスってありますか?

吉高 「次世代へ繋ぐ」ということは、いかなる企業にとっても、一番効力があるトリガーになるのではないでしょうか。世界最高スピードで少子高齢化が進む日本で、地球環境の変化を敏感に感じている優秀な若い世代がたくさんいます。企業側が少ない優秀な人たちを採用しようと思ったら、SDGsネイティブと言われる世代に響く経営をしていないと、彼らから選ばれなくなりますし、投資家も社会も期待しなくなります。なぜなら、企業経営において人財は成長戦略の重要な要素ですし、人材は中小企業も含めあらゆる企業の財産であることはいうまでもありません。

河本 僕もいまocean+αを通じてこのようなことをやり始めたことで、なにか一緒にできること有りませんか?って言っていただけることが増えてきました。それなのに、そこに雇用を生み出すことや海の将来にお金注ぎこんでっていうように中々ならないところにはジレンマを感じています。そこを投資で解決できたら、すごく理想だなって。そのためのストーリーをもっともっと発信していかなければいませんね。

SDGsとESG投資、そしてダイビングとの関係性とは? 吉高まり×河本雄太 [入門編]
(画像=『オーシャナ』より引用)

SDGsという指標を介すことで、ダイビングがもたらす経済効果や地方創生の可能性がより大きなものへとなりつつある。そして「ブルーエコノミー」に秘められたポテンシャルが、投資のへの窓口となり、これからの地球環境の保護への一助となることが今後期待される。次世代へと海を、地球をつなぐ準備は我々が思う以上に進められていると、この対談により深く感じることができた。


吉高まり
明治大学法学部卒、米国ミシガン大学環境・サステナビリティ大学院(現)科学修士。
慶應義塾大学大学院政策・メディア科非常勤講師。
同学科学術博士。
IT企業、米国投資銀行ブラウン・ブラザーズ・ハリマン、日興シティなどでの勤務を経て、2000年、東京三菱証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)においてクリーン・エネルギー・ファイナンス部を立ち上げる。
途上国での温室効果ガス削減プロジェクトの資金枠組みづくり(カーボンクレジット組成など)で持続可能な経済を推進。
環境に配慮したファイナンス分野に精通。
これらの知見を活かし、政府、地方自治体、金融機関、事業会社などに向けて気候変動、SDGsビジネスやESG投資の領域についてアドバイス・講演などを実施。

提供元・oceanα

【関連記事】
DeepdiveDubai(ディープダイブドバイ)体験記 日本人初!世界一深いプールで素潜りした男
「知らない」からはもう卒業、サスティナブルなダイビング器材特集
ゴーストネットってなに?子どもたちへ美しい海を残すためのリサイクル講義
「もしかしてそれって密漁かも!?」弁護士さんに聞いた密漁のアレコレ
ヒルトンが提案する環境に配慮した旅の思い出づくり