クマムシが量子的なもつれ状態になったようです。

シンガポールの南洋理工大学で行われた研究によれば、クマムシを極低温の量子ビット回路に組み込んだところ、クマムシにも量子世界に特有の、観察するまでは状態が確定しない「量子もつれ」に移行した、とのこと。

クマムシは絶対零度に近いマイナス272℃から水の沸点を上回る150℃までの温度を生き延び、宇宙空間でも10日間が生存可能と異常な能力が知られていますが、どうやら量子的な能力を獲得することも可能なようです。

研究内容の詳細は12月16日にプレプリントサーバーである『arXiv』にて公開されています。

目次

  1. クマムシを「量子もつれ」状態にすることに成功! 実験後も生還
  2. 死んで凍った死体で試しても面白くない

クマムシを「量子もつれ」状態にすることに成功! 実験後も生還

クマムシを「量子もつれ」状態にすることに成功!
(画像=クマムシを「量子もつれ」状態にすることに成功! 実験後も生還 / Credit:Canva , ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

量子の世界では、異なる状態が重ね合わさって存在しており、観察するまで確定しない「量子もつれ」と呼ばれる奇妙な現象が存在します。

現在、世界各地で開発が続いている量子コンピューターでは、この「量子もつれ」の仕組みを利用しています。

量子は複数の状態が重ね合わさって存在しているものの、観察によって一瞬で確定が起こります。

そのため量子を電子回路に組み込んで「最適な観察」を行うことができれば、既存のコンピューターで何億年もかかる計算を一瞬で回答することが可能になるのです。

そんな将来の量子コンピューターの基礎原理となる「量子もつれ」ですが……

クマムシを「量子もつれ」状態にすることに成功!
(画像=クマムシは量子ビットを含む回路Bに直流で接続され、回路Bはもう一つの量子ビットを含む回路Aと相互作用している / Credit:Entanglement between superconducting qubits and a tardigrade . arXiv (2021)、『ナゾロジー』より 引用)

今回、シンガポールの研究者たちは「量子もつれ」を起こす回路(量子ビット)にクマムシの体を直流で突っ込むという荒業を敢行しました。

クマムシを取り付けた回路を計測することで「量子もつれ」がクマムシの体に起きているかを調べることが可能になります。

これまでの研究により、量子的な効果がさまざまな物体にもみられることがわかっていましたが、多細胞動物では誰も調べたことはありませんでした。

しかし、いったいどうしてクマムシが多細胞動物の代表として選ばれたのでしょうか?

結論から言えば、クマムシがもつ異常な生存能力のためでした。

クマムシは絶対零度に近いマイナス272℃から水の沸点を上回る150℃までの温度を生き延び、高線量の放射線にも耐えて、宇宙空間で10日間も生き延びることが可能です。

「量子もつれ」を起こすには絶対零度に近い温度まで回路を冷却する必要があるのですが、クマムシはそのような低温でも生存可能です。

今回の研究でも420時間にわたりほぼ絶対零度、ほぼ真空という条件(0,01k・10億分の6気圧)において「量子もつれ」が確認されましたが、実験後にクマムシを暖かい場所に戻すと、蘇生して元気に歩き回る様子が確認されています。

死んで凍った死体で試しても面白くない

クマムシを「量子もつれ」状態にすることに成功!
(画像=クマムシのアップ画像 / Credit:Canva、『ナゾロジー』より 引用)

今回の研究によって、多細胞動物であるクマムシにも「量子もつれ」が観察されました。

かつて物理学者たちは多細胞動物のような生命には、量子効果はみられないと考えていましたが、クマムシの異能生存能力が予測を打ち砕くものになりました。

クマムシを量子回路に突っ込むという実験の、そもそもの意味を問う声もありますが、重用なのは、量子効果の確認が死体ではなく、生きている多細胞動物で行われた点にあると言えるでしょう。

死んで凍っている生物を代わりに使っても同様の「量子ゆらぎ」の検出は可能ですが、研究者たちは「それでは面白くない」と考えたようです。

現在、研究論文は複数の科学サイトで取り上げられおり、量子力学と生物学のコラボは研究者たちの目論見通り、大成功と言えるでしょう。

元論文
Entanglement between superconducting qubits and a tardigrade

提供元・ナゾロジー

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