1960年代に、ポルトガル南部のサド渓谷で発掘された約8000年前の人骨。
その写真をもとに遺体の腐敗過程を調べた結果、遺体は埋葬前にミイラ化の処理を受けていたことが示唆されました。
現状、世界最古のミイラと断定されているのは、南米チリのチンチョーロ文化の遺跡で見つかった約7000年前の遺体です。
今回の結果が正しければ、ヨーロッパだけでなく、世界で最も古いミイラ処理された遺体の証拠となる可能性があります。
研究の詳細は、2022年3月3日付で学術誌『European Journal of Archaeology』に掲載されました。
目次
失われた遺骨の写真を再発見!
「自然腐敗」と「人為的ミイラ処理」の違いをシミュレーション
失われた遺骨の写真を再発見!
1958年から1964年にかけて、サド渓谷にある2つの遺跡(ArapoucoとPoças de S. Bento)で行われた発掘調査にて、約8000年前の人骨が100体以上も発見されました。
しかし残念なことに、この古い研究については回収された人骨だけでなく、それを収めた写真や遺跡の図面、フィールドワークの資料など、多くの情報が失われています。
ところが最近、リスボン・オープン大学(Open University in Lisbon)の考古学者、ジョアン・ルイス・カルドーゾ(João Luís Cardoso)氏は、地元の資料館にて、ある3巻のフィルムに出くわしました。
これを調べてみたところ、1961年と62年にサド渓谷で発掘された13体の遺骨と判明したのです。
こちらが実際の写真。
そこで研究チームは、高度なシミュレーション技術を用いて、埋葬前これらの遺体がどのような処理を受けていたか調査することにしました。
「自然腐敗」と「人為的ミイラ処理」の違いをシミュレーション
今回の調査では、遺体が自然に腐敗するプロセスの知識をもとに、姿勢(身体部位の位置)や軟組織、関節の状態を参照しながら、「自然腐敗」と「人為的ミイラ処理」のどちらであるかを検証しています。
具体的には、法医人類学の手法を使って、「自然腐敗」と「ミイラ処理」における遺体の腐敗プロセスの違いをシミュレーションしました。
たとえば、下の画像は、ミイラ化の手法の一つとして、肉付きのよい遺体を、姿勢維持のためにヒモで棒に固定させた場合のシミューションです。
左が1日目で、中央が3週間後にあたり、ヒモの締め付けと軟部組織の乾燥で、体積が減少しています。
右は7カ月後を示し、この段になると体積がさらに減少し、骨の屈曲も大きくなっています。
次の画像は「自然腐敗」と「ミイラ化」の違いをシミュレーションしたものです。
上段が自然腐敗における遺体の変化です。左が埋葬時の状態、真ん中が2年2カ月後、右が最初の埋葬時の姿勢と、最終的な骨の位置を重ねたものを示します。
下段はミイラ処理された遺体の変化です。左は7カ月の自然乾燥後(うち最初の3週間でヒモの固定)の姿勢、真ん中は3年2カ月後、右は最初の姿勢と最終的な骨の位置です。
これらを踏まえた結果、写真内の遺体は、人為的にミイラ化された可能性が高いと結論されました。
軟部組織は残っていないものの、ヒザを胸側に折り曲げた姿勢や、骨の周りの堆積物、関節の離断がないことなど、すべてミイラ処理された遺体にみられる特徴でした。
自然腐敗だと、比較的早い段階で関節が離断するといいます。
ここで用いられたミイラ処理について、チームは「自然乾燥した遺体をロープで徐々に締めて、姿勢を望ましい形に整えたのではないか」と推測しています。
この結論が正しければ、世界で最も古いミイラ処理の証拠となります。
それでもチームは「先史時代にはミイラ処理が予想以上に一般的に広まっており、実際にはもっと古い例があるのではないか」と考えます。
ミイラ処理した遺体は組織がもろく、直接的な証拠を入手するのは困難です。
しかし、今回のように高度な技術を使えば、古代の遺骨からミイラ処理の痕跡をつかむことが可能でしょう。
人類は、私たちの考えるよりはるか以前に、遺体の人為的ミイラ処理を発明したのかもしれません。
参考文献
8,000-year-old skeletons in Portugal could be world’s oldest mummies
元論文
Mummification in the Mesolithic: New Approaches to Old Photo Documentation Reveal Previously Unknown Mortuary Practices in the Sado Valley, Portugal
提供元・ナゾロジー
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