日本でファションビジネスが「オワコン」化していない理由

さて時事的な話を解説したところで、ここからは日本のアパレルをオワコン化させているのは「人災」であるということについて説明したい。
私は以前、拙著「生き残るアパレル、死ぬアパレル」で、イオン、セブン&アイの2社は空中戦(ECプラットフォーム)が鳴かず飛ばずで、「揺りかごからから墓場まで」を実現すべく数多くの改革の上に再トライを繰り返すも、制空権を失った今、Amazon.com、楽天、ZOZOの3社が地上戦にでるだろうと予想した。
しかし、アマゾンの日本事業は、類推するに内部の複雑な意思決定構造のため、幾度もアマゾン・ファッションで失敗を繰り返している。現在は、得意のデジタルマーケティングが活用できる領域として、グロサリーやコンビニ分野を強化しようとしている。ちなみに、Amazonは米国とイギリスでAmazon Booksなどのリアル店舗を次々と閉鎖した。
一方、昨年末には楽天ファッションが渋谷スクランブルスクエアに、ZOZOはD2Cブランドを阪急梅田店に、21年末限定でポップアップストアを出した。
アパレル分野における地上戦の戦いは、今後、私が定義する競争力があるD2Cモデルをひっさげ、楽天ファッションとZOZOの2強の戦いになるだろうと私は見ている。
繊研新聞の報道によれば、空中戦で戦うプラットフォーマーの「アパレルビジネス」は40%以上の伸びを示し、「オワコン」どころか、最も成長が期待できる領域になっているようだ。こうした事実はクローズアップされず、「もはや高齢化した顧客をメーンターゲット」とする既存の老舗アパレルの不振だけが目立つため、世間では「アパレル=オワコン」というイメージが定着している。
だが、日本にはセレクトショップのベンチマークといわれる「クラシカルエルフ」など、感度の高いアパレルもある。中国Sheinの逆モデルができる可能性だってあるほどだ。私は、これらのモンスターが孵化し、正しい経営と大きな資金を集めれば産業の新陳代謝が起きるだろうと思う。
こうした中、今、売れているのは、「アウトドア(ゴルフ)」と「コンテンポラリーモード」と呼ばれる日本独自のシルエットの服ぐらいだ。これに対して、苦戦しているのが「イタリアンクラシコ」のドレスラインで、これは、どのアパレルも燦々たるものになっている。人が外に出なくなったからだ、で片付ける分析が圧倒的だが、ならば、外にでれば、またクラシコが復活するのかと聞きたい。
ファッション業界復活には30代の活用が不可欠
本質的な分析でいえば、ファッションとは残酷なもので、サステナブル(同じ力で生き続ける)ではないという宿命を、我々は忘れがちで、中々「損切り」ができない。優しくいえば、ブランドが囲い込んだ顧客は、ブランドパワーが強いほど簡単には離れず、従ってブランドチェンジは極めて難しく、新しくブランドを作り直した方が早い。ファッションとは、浮き沈みが激しく、出ては消える泡のようなものなのだ。
私は今、アパレル業界の次世代教育をやっているが、参加者の最大の悩みは「上司が、全く言うことを聞いてくれない、邪魔をする」だ。30代の人間は、中間管理職を通してしかトップにものを申せない。また、万一トップにリアルな話をすると、中間管理職から瞬殺で電話がかかってきて「俺はきいてないぞ」と怒られる。
内部にいる若手は、全く実力が発揮できず40代でようやく課長になれるかどうかの出世争いで社内政治に精を出すしかない。
企業戦略にも課題がある。今は、ネクタイ、ドレス系革靴、スーツ、ブラウスを販売している企業は相当苦しい経営の舵取りを強いられている。だが、「ファッションの残酷さ」「浮き沈み」を知っていれば、業態転換や再構築を行う時間はいくらでもあったはずだ。私は10年前、「ブランドで競争する技術」で「ファッションは分散せよ」とページを割いて書いているが、斜め読みして分かった気になるからこうなるのだ。
例えば、私ならZOZOに生息する恐竜の卵の孵化、そして、その後の世界化をしっかりロードマップを描き、正しい活用方法を考える(=戦略立案)だろう。
このように、「オワコン」といわれるアパレル産業のほとんどは「人災」が問題で引き起こされており、その多くは本質的にコロナではない。
「DXとD2CによるESG経営」研究会
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TEL:03-5610-5701 担当:碓井
提供元・DCSオンライン
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