植物にとっての「恵みの雨」は一方で、病原菌を運んでくる裏の顔を持ち合わせます。

これに対し、植物がどんな反応をしているのか、ほとんど分かっていませんでした。

しかし今回、名古屋大学の研究により、植物は雨に打たれることで、免疫系を活性化させることが判明しました。

雨は、植物の免疫スイッチをオンにするきっかけでもあるようです。

研究の詳細は、2022年3月8日付で科学雑誌『Nature Communications』に掲載されています。

目次




「雨」に打たれて、免疫系のスイッチオン!

植物は、ヒトなどの動物と同様に高度な免疫系を持っています。

そのため、免疫系を活性化させることで、病原体の感染を阻止することが可能です。

一方で、植物に感染する病原体の多くは、空から降ってくる雨によって媒介されています。

雨の中には、細菌や糸状菌、ウイルスといった病原体が潜んでおり、それらが原因で、植物が病気になることも多々あるのです。

それゆえ、雨は植物の成長と生存に必要不可欠である一方、危険な存在とも言えるでしょう。

にもかかわらず、雨に対して、植物がどんな対策をとっているのかよく分かっていませんでした。

植物は雨に打たれると「免疫スイッチ」をオンにすると判明!
(画像=植物は雨に対してどんな応答をするのか? / Credit: canva、『ナゾロジー』より 引用)

そこで名古屋大学 遺伝子実験施設と、同大学院理学研究科のチームは、モデル植物であるシロイヌナズナを対象に、雨に対する応答のしくみを調査。

まず、RNA-seq法(特定の細胞や組織における遺伝子の発現レベルを調べる技術)を用いて、雨を受けたときにどんな遺伝子を発現するか調べました。

すると、シロイヌナズナは雨を受けると、免疫関連の遺伝子を発現し始めたのです。

遺伝子発現とは、DNAに記されている情報の中から、必要な設計図を読み出して(転写)、それに応じたタンパク質を作ることです。

DNAとは生命の設計図と言われますが、それ単品では特に何もしません。

当然設計図なので、この中の情報から、何を読み出して、何を作るかによって生物の生命活動は成立しているのです。

そのため遺伝子発現では、転写を制御する因子が重要な要素となってきます。

シロイヌナズナの免疫関連遺伝子群は、CAMTAと呼ばれる転写因子によって発現が制御されています。

このCAMTAはカルシウムイオン(Ca2+)の濃度が低いとき、転写を抑制する機能を持っています。

そのため、 雨は植物の細胞内のカルシウムイオン濃度を上昇させている 可能性が予想されました。

そこでチームは、カルシウムイオンに反応して蛍光するタンパク質「GCaMP3」を、シロイヌナズナに導入して実験してみました。

その結果、葉の表面に存在するトライコーム(毛状の細胞)に水滴が当たることで雨が感知されると、その周辺の組織にカルシウムウェーブ(局所で生じるカルシウムイオン濃度の上昇が、ウェーブ状に周囲に広がる現象)が発生したのです。

それにより、 免疫抑制性のCAMTA転写因子が不活性化し、代わりに免疫関連の遺伝子群が誘導され、免疫システムが活性化した のです。

植物は雨に打たれると「免疫スイッチ」をオンにすると判明!
(画像=トライコームが雨を感知して、免疫スイッチをオン! / Credit: 名古屋大学 – 植物は雨に打たれると免疫を活性化する(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

以上の結果から、植物が雨を危険な存在として認識しており、トライコームが雨の感知を担っていることが明らかになりました。

この知見は、植物の免疫システムの成り立ちの理解を深めるだけでなく、農作物の病気を防ぐことにも有用と期待されています。

提供元・ナゾロジー

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