このほど、インド在住の50代の男性が、自らの「舌」の異変に気づき、皮膚科を受診しました。

なんと、舌が毛のような真っ黒い繊維でびっしり覆われていたのです。

ツリーマンのような奇病か? と思ってしまいますが、診察した医師はこれが「誰でもなりうる一般的な症状である」と説明します。

正式な病名を「黒色毛状舌(lingua villosa nigra)」といい、世間では「黒毛舌」として知られています。

一体どんな症状で、何が原因で起こるのでしょうか。

症例報告の詳細は、2022年3月9日付で医学雑誌『JAMA Dermatology』に掲載されています。

目次




誰にでも起こりうる舌の病気「黒毛舌」とは?

男性は3カ月前、脳卒中で左半身に麻痺が生じ、皮膚科を受診した時点でもまだ軽い麻痺が残っていたという。

そのため、男性はピューレ状や液体状の食品を摂取する食事療法を続けていました。

そして脳卒中から約2カ月半後のある日、世話人が男性の口の中を覗くと、舌の表面を覆う「黒い膜」があることに気づいたのです。

症例報告によると、分厚く黒い色素は、舌表面の大部分を覆っており、先端や外縁部、中央の溝には沈着していませんでした。

担当医は、細菌の繁殖状態を調べるため、舌の粘液サンプルを採取し培養しましたが、異常繁殖はまったく見られていません。

研究チームは「これらの所見から、黒毛舌と結論できる」と書いています。

舌から「黒い毛」が生える謎の奇病!? 医師「いえ、誰にでも起きる一般的な症状です」
(画像=男性の「黒毛舌」の症状 / Credit: Puravoor Jayasree et al., JAMA Network(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

舌の表面には通常「糸状乳頭」という小さな円錐形の隆起が存在しています。

この乳頭はふつう、約1ミリの長さに成長した後、剥離(desquamation)と呼ばれる過程で舌から剥がれ落ちます。

ところが、、歯みがきや舌ブラシによる掃除を怠ったり、柔らかいものばかり食べ、固い繊維質の物を食べないと、乳頭が剥離せず成長を続け、最大で約18mmにまで達してしまうのです。

黒毛舌は、このように舌表面にある「糸状乳頭」が、通常のように剥がれ落ちなかったことで発生します。

つまりこの奇病とも思える症状は、口腔内の衛生状態が悪くなれば、誰でも発生リスクが高まるのです。

また、コーヒー、紅茶、アルコール、タバコ製品の過剰摂取、抗生物質のような特定の薬、頭や首の放射線治療、ドライマウスなども、黒毛舌を引き起こす要因に数えられます。

舌から「黒い毛」が生える謎の奇病!? 医師「いえ、誰にでも起きる一般的な症状です」
(画像=「柔らかいものばかり食べない、口内を清潔に保つ」が大事 / Credit: canva、『ナゾロジー』より 引用)

黒い膜が毛髪のように見えるのは、長く伸びた糸状乳頭が、毛髪に含まれるタンパク質の「ケラチン」を生成するためです。

加えて、細菌や食べかすが成長した膜に入り込むことで、黒く変色します。

アメリカ口腔医学アカデミー(AAOM)によると、推定13%の人が黒毛舌を発症しており、高齢者で最もよく見られるという。

幸いなことに、この症状はほとんど無害で、長続きもしません。

この男性の場合、特に痛みや舌の不具合を感じることはなく、簡単な口腔衛生習慣ですぐに治ったといいます。

報告では「患者に適切な洗浄方法をアドバイスすることで、症状は20日後に解消された 」と述べられています。

・柔らかいものばかり食べない

・定期的に歯をみがき、口内を清潔に保つ


この2つを忘れなければ、黒毛舌を発症することはないでしょう。

提供元・ナゾロジー

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