乾燥地帯では水が非常に貴重であり、植物を栽培するのは困難です。
しかし、他のエネルギーがないわけではありません。
では、地上に降り注ぐ灼熱の「太陽光」を、水生成や栽培に利用することはできないでしょうか?
サウジアラビアのキング・アブドラ科学技術大学(KAUST)生物環境科学工学部に所属するパン・ワン氏ら研究チームは、ソーラーパネルの余熱を利用して空気から水をつくるシステムを開発。
これにより、水のない場所でもホウレンソウを栽培することに成功しました。
研究の詳細は、2022年3月1日付の科学誌『Cell Reports Physical Science』に掲載されています。
無駄になっていた太陽光エネルギーを再利用
ソーラーパネルを設置すると、太陽光を電気に変換できます。
ところが乾燥地帯の国々では、強すぎる太陽光を十分に活用できていませんでした。
日差しの強い乾燥地域にソーラーパネルを設置すると、かなりパネルが熱くなってしまいます。
太陽光発電はパネルが熱くなると、発電効率が落ちるという弱点があります。
そのため、発電効率を維持するためにはこれを冷却させなければなりません。
しかし、熱とは取りこぼした太陽光エネルギーともいえます。
これは単に別のエネルギーを消費して冷やすのではなく、逆に有効活用することができないでしょうか?
この点に注目した研究チームは、余った熱エネルギー活用して、乾燥地帯特有の「水不足」「食料不足」の問題を解決しようと考えました。
そこで電気・水・食料それぞれの生産システムを統合して、エネルギーの無駄を省くシステムを考案。
「太陽光を利用して水をつくり、その水で植物を栽培」しようとしたのです。
そこでチームは、空気中の水蒸気を吸収し、加熱されると凝縮した水として放出する特殊な材料を開発しました。
この新材料はヒドロゲル(またはハイドロゲル)と呼ばれる水を内部に含むゲルの一種です。
この特殊なヒドロゲルをソーラーパネルと組み合わせることで、パネルの排熱を利用して、乾燥地帯でも自動的に水が生成されるようにしたのです。
「電気・水・食料」生産を統合したシステムを開発
さらに研究チームは、特殊なヒドロゲルとソーラーパネルを組み合わせた栽培システム「WEC2P」を開発しました。
このシステムでは、まずソーラーパネルが太陽光で電気を生成。
同時にパネルの廃熱を利用し、空気中から水蒸気を吸収したヒドロゲルの排水を促します。
さらに生成された水は、付属の植物栽培システムに供給され、そこで植物を育てることができます。
実際、サウジアラビアで行われた実験では、60個のホウレンソウの種のうち、57個が発芽。
空気から集められた水だけで18cmまで正常に成長しました。
こうしてヒドロゲルがソーラーパネルの廃熱を吸収したことで、パネル自体の温度も下がり、発電効率は9%も向上しました。
この統合された生産システムは、太陽光パネルの冷却と植物栽培という、それぞれ異なった目的で、互いにメリットを与えていたのです。
まさに一石二鳥のシステムです。
さて、この新しいシステムはまだ研究段階にありますが、大きく発展させられる可能性を秘めています。
例えば、砂漠や孤島などの乾燥地帯や遠隔地に小規模農場をつくるのに役立つかもしれません。
現在チームは、システム効率を向上させるため、ヒドロゲルを改良し、より多くの水分を空気中から吸収できるようにしたいと考えています。
参考文献
These solar panels pull in water vapor to grow crops in the desert
元論文
An integrated solar-driven system produces electricity with fresh water and crops in arid regions
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功