手をそえるだけで注意力が上がるようです。

東北大学の研究によれば、手をそえた物体には意識的に向けられる注意とは別ルートの、新たな注意効果が発生することが判明した、とのこと。

また、手をそえることで生じる注意は、実際に自分の手が見えない状況でも発生することが示されており、体の感覚に依存した、無意識的に得られる効果である可能性が示唆されました。

このことは、手や指をそえる注意動作が、意識的な注意力に加えて無意識の注意力を利用できる「注意の2度掛け」を実現できることを示します。

しかし、いったいどうして手をそえるだけで注意力が向上するのでしょうか?

研究の詳細は、2022年2月7日付で科学雑誌『Cerebral Cortex Communication』に掲載されています。

目次

  1. 手をそえた物体に対して注意力が上がる!
  2. 注意力の増加は特に右利きの人で大きかった

手をそえた物体に対して注意力が上がる!

「指さし確認」などに代表される手の動きを用いた注意動作は、工事現場や車両点検など、さまざまな場面で広く利用されています。

指さし確認の効果は非常に高く、手の動きを注意対象に差し向けながら声を発するといった単純な方法でありながら、作業ミスを6分の1に減らす効果があると報告されています。

2006年から2018年の間に行われたいくつかの研究では、手を対象にそえるだけで、視覚的な探索能力、地図や図形の把握能力、記憶能力が向上することが示されています。

また実生活においても、重要な情報が込められた文章や物体に接したとき、自然と対象に手や指を近づけることがあるでしょう。

このことは、人間の脳にとって、そえられた手の周辺が情報処理を加速する特殊な空間に変化することを示唆します。

手や指をそえる「指さし確認」で注意力が上がると判明!
(画像=指さし確認の脳科学:手をそえた物体に対して注意力が上がると判明! / Credit:Canva、『ナゾロジー』より 引用)

しかし、これまでの研究では、単に意識を向ける注意(トップダウン型注意)と、手をそえる注意(手の近接型の注意)が本当に別質であるかは明らかにされていません。

また重要なのは、見える手の存在そのものなのか、あるいは手がそえられているという体感なのかも不明でした。

そこで今回の研究では、高速回転する棒を映すスクリーンの裏に手を配置し、合図が与えられた瞬間の「棒の角度」を答えてもらう実験を行いました。

このスクリーンは不透過であるため、実験参加者は自分の手を直接見ることはできません。

参加者に求められるのは、右手か左手の一方をスクリーンの裏に差し出すことと、スクリーンの上で回転する棒の角度を答えることだけでした。

すると、回転する棒とスクリーン裏の手の位置が近いときに、回答する角度の正確さが増すことが判明したのです。

この結果は、手をそえることで得られる注意力は、視界内に手が入っていることが重要なのではなく、手を近づけているという実際の体感が重要であることを示します。

また結果を分析すると、回転する棒が参加者からみて右側にあり、右手をそえている「右手右側条件」が最も正確性を上げることが判明します。

しかし、より興味深い発見は、利き腕の違いにみられました。

右利きの人と左利きの人では、手をそえることで上がる注意力に差があったのです。

注意力の増加は特に右利きの人で大きかった

手や指をそえる「指さし確認」で注意力が上がると判明!
(画像=右利きの人は手をそえると注意力が大きく上昇する / Credit:Canva . ナゾロジー編集部、『ナゾロジー』より 引用)

研究チームが実験データを分析していると、意外な結果がみえてきました。

手を近づけることで得られる注意力増加は、左利きの人よりも右利きの人で有意な差がみられたのです。

また脳波(SSVRP)を用いた調査でも、右利きと左利きの人では異なる結果を示しており、注意力増加のメカニズムが利き手によって異なる可能性を示しました。

研究者たちは手をかざして注意力を高めるという行動が、利き手の生じるメカニズムに何らかの影響を受けていると考えています。

もし今、受験や資格試験などの注意力を要する課題に取り組んでいたり、仕事などでミスが許されないデータを扱うことになったら、手や指をかざしてみるといいかもしれません。

参考文献
手を添えるだけでも視覚処理は促進される 手の周囲の無意識的注意効果とその利き手との関連に関する発見

元論文
Visual attention around a hand location localized by proprioceptive information

提供元・ナゾロジー

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