「呼吸」の動きを模倣した抱き枕に、瞑想と同じくらい不安を軽減する効果があることが判明しました。
ザールランド大学(Saarland University・独)は、人の肺のように膨張・収縮する抱き枕のプロトタイプを開発。
それを8分間抱くことで、誘導瞑想と同等のリラックス効果が見られています。
研究の詳細は、2022年3月9日付で科学雑誌『PLOS ONE』に掲載されました。
抱き枕の動きが「リラックスできる呼吸のリズム」を誘導
インタラクティブ(相互作用的)な触覚デバイスは、以前から不安の軽減と関係があり、薬を使わずにほぼ即効性のある緩和をもたらす可能性があると指摘されていました。
そこで研究チームは、触覚のリラックス効果を実証すべく、呼吸の動きを模倣した抱き枕を試作。
特別な技術は一切使っておらず、長さ36センチの枕の中に空気で膨張・収縮するエアバッグを入れています。
実験では、129人のボランティアに「これから数学のテストを受けてもらう」と言い、その前後の不安レベルをアンケートで測定しました。
ボランティアは3つのグループに分けられます。
第一の45人のボランティアには、試作品の抱き枕を8分強抱いてもらい、第二の40人にはガイドによる誘導瞑想を聞いてもらいます。
そして残りの44人には実験のコントロール群として、何もせずただ座ってもらいました。
結果、数学のテストを受ける前と後で、コントロール群は不安が増大していたのに対し、抱き枕と誘導瞑想のグループは、同じくらい不安が軽減されていました。
研究主任のアリス・ヘインズ(Alice Haynes)氏は「この抱き枕の利点は、特別な指導を必要とせず誰でも簡単に利用できること」と指摘。
「薬剤や瞑想と違って説明がいらず、使い慣れたものなので、アプリを使ったり、携帯電話や他のデバイスを使う必要もありません」
また、ヘインズ氏によると、抱き枕を使ったボランティアのほとんどは、枕の膨張と収縮に呼吸のリズムを合わせていたという。
「ゆっくりと深い呼吸のリズムは一般に、リラックスに関連する神経系の部分を活性化させるものです」
抱き枕は、使用者の心が和らぐ呼吸リズムを誘導しているのかもしれません。
不安障害は、生涯で約3分の1の人が罹患し、その治療法の多くは、薬剤の導入に重きをおいています。
しかし、薬剤療法には費用がかかる上、しばしば望ましくない副作用をもたらすことがあります。
他方で、今回の抱き枕のような触覚療法は、費用がかからず、副作用の危険性もありません。
「最終的には、抱き枕が不安を抱えている人に、それを軽減する選択肢の一つになれば嬉しい」とヘインズ氏は述べています。
参考文献
Hugging a pillow that mimics breathing could reduce anxiety
元論文
A calming hug: Design and validation of a tactile aid to ease anxiety
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功