地球のマントル下層の奥深くにあるメソスフェアから、「生命の痕跡」が確認されました。

そう言われると、マントルに生命がいるの? と勘違いしてしまいそうですが、これは地球上の生物の痕跡です。

スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zurich)の研究チームは、世界各地から採取した地球深部で形成される鉱物キンバーライトのうち、若いサンプルに通常では説明できない炭素同位体組成を発見しました。

研究者は、この痕跡はカンブリア爆発で大量に地球上に誕生した生命の堆積物が、地殻活動によって一度地球深部に取り込まれた後、再び火山噴火などで地上へ戻ってきたものと説明します。

これは地球の内部活動が地表へ影響を与える以外に、地上の活動も地球内部へ影響していることの証拠になるといいます。

研究の詳細は、2022年3月4日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。

目次
驚くほど壮大な旅をしてきた炭素
カンブリア爆発で誕生した生物がマントルまで沈んで戻ってきた

驚くほど壮大な旅をしてきた炭素

地球内部には、どろどろに溶けたマントルが循環していて、それが地上へと運ばれ火山噴火を起こし、大気中へ火山ガスを放出したり、火成岩などを地上へもたらします。

ダイヤモンドのような宝石も、元はマントル下層で形成されたものが地上へ運ばれた鉱物の1つです。

こうした地球内部の活動が、地下深くの化学物質を地上に運び出していることはなんとなくイメージできますし、科学者たちもよく理解しています。

けれど逆に、地上にあるものが地下深くに運ばれ、地球内部に化学的な変化をもたらすことは、これまで確認されておらず、見過ごされてきました。

しかし、プレートテクトニクスの活動からもわかるように、地上の物質も地下深くへ運ばれています。

地球のマントル奥深くで「生命の痕跡」を発見
(画像=プレートテクトニクスの活動は地上の堆積物を地球内部へと運び込んでいる / Credit:jp.depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

今回、そうした地上の堆積物の痕跡が、地下深くで形成される鉱物から初めて発見されたのです。

ETHチューリッヒの研究チームは、地球の歴史上、さまざまな時代で採取されたキンバーライト(kimberlite)という鉱物を調査しました。

キンバーライトは、カンラン石と雲母を主要構成鉱物とする火成岩の一種です。

地球のマントル奥深くで「生命の痕跡」を発見
(画像=地球深部で形成されるキンバーライト。画像は炭酸塩に富むキンバーライトの薄片。 / Credit:Photograph: David Swart / Messengers of the Mantle Exhibition、『ナゾロジー』より引用)

この岩には、たまにダイヤモンドも混じっていたりします。

キンバーライトは、地球深部のマントル下部にある「メソスフェア」と呼ばれる場所で形成されます。

ダイヤモンドが混じることからわかるように、ダイヤモンドもこうした地下深くで形成されています。

地球のマントル奥深くで「生命の痕跡」を発見
(画像=ダイヤモンドの形成と地球の内部構造 / Credit:BRIDGE ANTWERP BRILLIANT GALLERY,スーパーディープダイヤモンド(Super‒Deep Diamond)、『ナゾロジー』より引用)

研究チームは、このキンバーライトの約150のサンプルの炭素同位体組成を測定しました。

すると、年齢が2億5000万年未満の若いキンバーライトの組成が、古いキンバーライトとかなり組成が異なっていることを発見したのです。

それは一般的に、マントルで形成される鉱物に期待される炭素同位体組成とは、異なっていたのです。

一体、なぜ若い岩石には、古い岩石とまるで異なる炭素同位体の組成が見られたのでしょうか?

研究者たちは、これが地球に生物が大量に誕生したことによって起きた地球内部の変化を示している痕跡なのではないか、と考えたのです。

彼らが着目したのは約5億4000万年前に起きたカンブリア爆発でした。

カンブリア爆発で誕生した生物がマントルまで沈んで戻ってきた

カンブリア爆発とは、カンブリア紀の地質学的に言えば比較的短い数千万年の期間で、現在存在する生物のグループ(門)がほとんど出そろった事象を指します。

これは地質学上の記録から見ると、という前置きがあるので、本当に突然生物が多様に進化したかどうかはまた別の話になりますが、少なくともカンブリア紀に生物の多様性が広がり、地球上に生命が溢れ出したのは確かなようです。

こうした地球上に生命が増えたことで、地上(海底を含む)には生命の死骸から成る堆積物が積み重なっていきました。

これは地球の長い歴史上から見ても、かなり劇的な変化でした。

こうした地球表面の変化は、プレートテクトニクスの活動で地球内部へも運ばれていき、地球内部の化学的な循環にも影響を与えたと考えられるのです。

そしてカンブリア紀の大量の生物たちの堆積物は、マントル下層のメソスフェアまで運ばれていたと考えられます。

これが研究者たちの発見した、若いキンバーライトに見られる炭素同位体組成の異変につながったのです。

つまり研究者たちは、プレートテクトニクスの沈み込み帯からマントル下層のメソスフェアまで取り込まれたあと、火山噴火で再び地上へと戻ってきたカンブリア紀の生物たちの痕跡を発見していたのです。

地球のマントル奥深くで「生命の痕跡」を発見
(画像=マントル下層まで運ばれたカンブリア紀の生命の痕跡は、5億年以上掛けて再び地上に戻ってきた / Credit:depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

しかし、沈み込み帯に沿ってマントルに取り込まれる地表の堆積物というのは、ごくわずかであるはずです。

それが鉱物から検出可能なレベルで痕跡を残していたことは注目に値します。

これはつまり、地球マントルに沈み込んだ岩石は、均一に撹拌されたりはせず、特定のルートに沿ってまとまって移動し続けていることを意味しています。

地球の複雑な活動の一端が、ここからは見えてくるかもしれません。


参考文献

Traces of Life Discovered Deep in the Earth’s Mantle

元論文

Perturbation of the deep-Earth carbon cycle in response to the Cambrian Explosion


提供元・ナゾロジー

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