配偶者控除や配偶者特別控除が廃止になる——? そんな話を聞いた人もいるはずだ。実際に2018年から所得税法が改正され、高所得者層ではこれらの控除が廃止、縮小となっている。一方で、高所得者層以外では配偶者特別控除の範囲が拡大され、実質減税となっている世帯もある。配偶者控除や配偶者特別控除の制度改正についての正しい理解が必要だ。配偶者控除や配偶者特別控除には以前から問題点が指摘されており、廃止論も多くある。今後の議論の行方にも注目が集まっている。

配偶者控除と配偶者特別控除

配偶者控除と配偶者特別控除の廃止を議論する前に、まずはこれらの説明を簡単にしておこう。

所得税法では、所得の少ない配偶者がいる場合、その収入に応じた所得控除が認められている。それが配偶者控除や配偶者特別控除と呼ばれる制度である。配偶者の年間所得が38万円以下の場合には配偶者控除が適用される。その所得控除額は38万円(配偶者が70歳以上の場合は48万円)である。

配偶者が給与所得者の場合、給与所得控除の65万円を加味した給与収入103万円以下が目安だ。「103万円の壁」と呼ばれる表現を聞いたことのある人も多いだろうが、それは配偶者控除の適用を分けるボーダーラインを指している。

ボーダーラインである年間所得38万円を超える場合、配偶者控除が適用されず、税負担が急増することとなる。こうした事態を避けるため、激変緩和措置として設けられているのが、配偶者特別控除である。配偶者の所得が38万円を超える場合でも、123万円以下は段階的に所得控除が設けられている。「103万円の壁」を越えた場合でも、配偶者の勤労意欲を維持するための仕組みといえる。

配偶者控除 廃止となるのは高所得者のみ

配偶者控除と配偶者特別控除であるが、2018年より大幅に制度改正された。実はこの制度改正に伴い、一部の層では配偶者控除や配偶者特別控除が廃止、縮小となっている。

配偶者控除や配偶者特別控除が廃止、縮小となるのは、高所得者層である。2018年より、配偶者控除の適用に、配偶者だけでなく控除を受ける人自身の所得要件が追加されることとなった。控除を受ける人の合計所得金額1000万円以下が適用要件に加えられている。給与所得者の場合、年収1220万円がボーダーラインとなる。

また配偶者特別控除にも手直しが加えられている。控除を受ける人の合計所得金額が900万円超である場合、900万円超950万円以下の層と950万円超1000万円以下の層の2段階に分けて、配偶者控除や配偶者特別控除の引き下げが行われている。給与収入者の場合、年間所得900万円は年収1120万円に相当する。世帯の状況にもよるが、これらの層では配偶者特別控除の制度変更により、実質増税となるケースもある。

高所得者には2018年より配偶者控除の廃止や配偶者特別控除の縮小が増税となってのしかかっている。

高所得者以外は控除対象範囲がプラスに 実質減税となる人も

2018年からの配偶者控除、配偶者特別控除の改正は高所得者に厳しい内容となっている。控除の廃止や縮小のあおりを受けている人もいるだろう。一方で、高所得者以外には、実質減税ともいうべき制度改正も成されている。

配偶者特別控除の対象範囲拡大がそれに当たる。従来の制度では、配偶者特別控除の対象となる配偶者は、年間所得76万円未満であることが要件となっていた。2018年より、年間所得の上限が123万円にまで引き上げられている。給与所得者の場合、その上限は給与収入141万円から201万円へ変更されたこととなる。

また、配偶者特別控除の最大所得控除額が38万円である点には変更はないものの、その対象は年間所得40万円未満から85万円以下へと引き上げられた。配偶者が給与所得者の場合、給与収入150万円以下であれば、最大となる38万円の控除を受けることができるようになった。

このように、高所得者以外の人にとっては、配偶者特別控除の対象範囲拡大や最大控除額の適用範囲拡大によって、実質減税の恩恵を受ける人もいる。

配偶者控除、配偶者特別控除の改正背景は?

2018年に改正された配偶者控除と配偶者特別控除だが、その改正にはどのような意味があるのだろうか。大きく二つに分けて説明を行うことができる。

一つ目は高所得者に対する税負担強化の流れであり、所得再分配の強化と言い換えることもできる。高所得者の税負担を増加させることにより、税収のバランスを取る狙いがある。この流れは高所得者に対する給与所得控除の減額等と同様である。

二つ目は女性の社会進出を促すことである。従来は配偶者控除のボーダーラインである給与収入103万円が大きな壁として存在していた。給与収入が103万円を超えた場合、配偶者特別控除を加味しても、多少の収入の増加では手取り金額の増加とならないケースが目立っていた。働いても手取り金額が増えない状況であれば、年間給与収入を103万円以下にとどめる選択をする人も多く、女性の社会進出の妨げと指摘されていた。

今回の改正では、配偶者特別控除が見直され、上限となる38万円の控除を受けることができる範囲が大幅に拡大された。従来の「103万円の壁」が「150万円の壁」へと変更されたのである。給与収入が150万円を超えるまでは38万円の所得控除が受けられるため、女性の就労意欲の増加が期待される。

今回の配偶者控除や配偶者特別控除の改正はこうした二つの思惑によって、高所得者は増税、それ以外は減税という制度改正を生み出すこととなった。

根強い配偶者控除廃止論

2018年の制度改正では、年間所得が1000万円を超える高所得者のみ配偶者控除が廃止された。しかし、配偶者控除や配偶者特別控除を巡っては、制度そのものの廃止論も絶えず議論されている。配偶者控除や配偶者特別控除の廃止論はどのような考えに基づいているのだろうか。

配偶者控除や配偶者特別控除の廃止論であるが、その主張の根幹は現行制度が現状の社会構造に合っていないというものである。配偶者控除が導入された1961年は高度経済成長期であり、正社員の終身雇用、年功賃金が当然の時代であった。夫は会社で終身雇用され給与は年々上昇していき、妻は専業主婦として家庭を支えるという価値観が社会を支配していた。そんな社会構造のもとに作られたのが、配偶者控除であった。その後、1988年にはパートで働く配偶者の給与収入が配偶者控除の適用範囲から外れた場合の手取り額減少を防ぐ措置として、配偶者特別控除が導入されることとなる。配偶者特別控除の導入についても、その背景には、夫は正社員、妻はパートという価値観が刻まれている。

配偶者控除の導入から2018年で57年目となる。その間、日本経済は高度成長期を終え、バブル崩壊から失われた30年に見舞われることとなったのは周知の通りである。終身雇用制神話も崩れ、共働き世帯も増加している現在の状況に対し、過去の社会情勢をもとに作られた配偶者控除は時代遅れとの主張が廃止論につながっている。

配偶者控除や配偶者特別控除は配偶者の所得が一定以下であることが要件とされており、夫婦ともに正社員として働くような世帯は控除の恩恵を受けることができない。中立な税制といい難い部分があることも事実だろう。

さらに近年は、働き手の減少に伴い、女性の社会進出が求められている。しかし、配偶者控除や配偶者特別控除がつくる「○○万円の壁」は、配偶者の勤労意欲をそぎ、女性の社会進出を妨げているという指摘もある。

「夫婦控除」の導入が解決策に?

配偶者控除に対するこのような廃止論は近年特に大きく議論されている。配偶者控除の廃止に絡め、それに代わる制度として議論が行われているのが、「夫婦控除」である。

夫婦控除は現行の配偶者控除や配偶者特別控除が片働き世帯やパート世帯を優遇する制度であることを鑑み、共働き世帯にも恩恵を与える制度として検討が進められている。具体的には、配偶者の所得に関わらず、世帯全体の所得をもとに一定の控除額を設ける制度である。配偶者の所得要件がなくなるため、共働き世帯には大きなプラスとなる。

社会情勢と中立な税制をもとに検討される夫婦控除だが、現状の配偶者控除や配偶者特別控除の恩恵を受けている片働き世帯やパート世帯からの反発も多くある。事実、2017年度税制改正で政府は配偶者控除の廃止と夫婦控除の創設を議論したものの、支持層に片働き世帯を多く抱える公明党等の反対を受け、断念することとなった。

最終的には、片働き世帯やパート世帯の既得権益を守りつつ、女性の社会進出も進むよう、配偶者特別控除の対象範囲拡大という玉虫色の決着となった。

今後の議論の流れは?

現状の配偶者控除や配偶者特別控除への廃止論は今なお根強い。特に自民党政権は、「一億総活躍社会」の実現に向け、女性の社会進出を推し進める意向が強く、配偶者控除廃止の議論を続けていくとみられる。

しかし、現在の配偶者控除は50年以上の歴史があり、その恩恵を受ける世帯が多いことも事実である。配偶者控除や配偶者特別控除の廃止が社会に与えるインパクトも大きく、その議論は簡単には進まないだろう。

2018年からの制度改正で配偶者特別控除の対象範囲が拡大されたが、今後も女性の社会進出を進めるべく、細かな改正が積み重ねられていく可能性は高い。また、女性の社会進出を妨げているとされる「○○万円の壁」に関しては、所得税法上の壁以外にも、社会保険に関する「106万円の壁」や「130万円の壁」等も存在する。今後はこうした社会全体の制度を包括的に議論していくことが求められるだろう。

配偶者控除や配偶者特別控除の廃止は議論の途上である。2018年より、高所得者の配偶者控除廃止というメスも入れられており、議論に対する注目は今後ますます高まっていく。

文・ZUU online編集部

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