マイホームの購入を考える現役世代が同時に考える生前贈与制度として「住宅取得等資金の贈与税の非課税」制度が挙げられる。この制度を活用すると現役世代の住宅購入の負担が減るだけでなく、将来発生する相続税を節税することもできるのだ。ただし、この制度はメリットが大きい分、落とし穴も多い。よく知らなかったばかりに損することもある。

「住宅取得等資金の贈与税の非課税」制度は暦年課税制度・相続時精算課税制度いずれもOK

「住宅取得等資金の贈与税の非課税」制度は、親や祖父母の世代から子や孫の世代への資産移転を促すことでタンスや銀行口座に眠っている現預金の活用を促し、住宅建築・売買の市場の活性化を図る目的で創設された。本制度は、暦年課税制度だけでなく相続時精算課税制度においても活用できる。ただし、名称は若干異なり、暦年課税制度だと「住宅取得等資金の非課税制度」、相続時精算課税制度だと「相続時精算課税制度の特例」となる。

いずれの課税制度においても、現時点で非課税となる金額は下記の通りだ。

非課税枠700万円(または1200万円)※1+110万円または2500万円※2

※1 2018年3月現在の上限額。一般住宅700万円、省エネ等住宅1200万円
※2 110万円は暦年課税制度の非課税枠、2500万円は相続時精算課税制度の非課税枠

つまり住宅購入資金としては最大3700万円が高齢世代から現役世代へ非課税で贈与できるのだ。住宅購入の平均価格は新築で3200~3300万円、中古で2000~2100万円といわれるため、活用次第では100%非課税制度で資金を生前贈与で調達し、住宅を購入することも可能なのだ。さらに、贈与者が亡くなった場合、つまり相続が開始した場合、暦年課税制度で相続開始前3年以内に贈与された財産は生前贈与加算の対象として相続財産に加算されるが、本制度の適用を受けた資金で暦年課税制度の枠内のものについては加算の対象とはならない。

ただし、他の非課税措置がそうであるように、本措置も細かい条件がいくつも存在する。うっかりミスしやすい注意点は次の通りだ。

注意点(1) 贈与者・受贈者に条件あり

教育資金贈与や結婚・育児資金の贈与の非課税制度と同じく、本制度においても贈与者と受贈者に次のような条件が付されている。

●贈与者の条件

受贈者の直系尊属であること※

※通常の相続時精算課税制度では贈与者の要件の一つに「60歳以上」という年齢制限があるが、非課税制度である相続時精算課税制度の特例において年齢制限はない。

●受贈者の条件

1.贈与のあった年の1月1日において20歳以上の贈与者の直系卑属であること(相続時精算課税については、これに加え、推定相続人であること。代襲相続を含む)
2.暦年課税制度での非課税制度では、受贈者の合計所得金額が贈与を受けた年の年分について2000万円以下であること
3.原則として贈与を受けた時に日本国内に住所を有していること

つまり、受贈者の義理の両親から住宅購入資金を贈与されても直系尊属ではないため本制度の適用を受けることはできない(ただし、義理の両親と養子縁組をしている場合は適用可能)。また、所得が給与所得だけの場合、年収2200万円を超える人だと暦年課税制度における非課税の適用を受けることはできない。このほか、有価証券や仮想通貨の売却、副業収入などで合計所得金額が2000万円を超えた場合も適用を受けられないので注意したい。

注意点(2) 非課税の対象物と用途に注意

「住宅取得等『資金』の非課税制度なので間違うはずがない」と思いたいところだが、案外誤解も多い。「住宅用の土地の贈与や住宅そのものの贈与にも使える」と思っている人もいるのだが、これら贈与は非課税にならない。あくまでも住宅用の土地や建物を買うためのお金だけが非課税の対象だ。

また、贈与された資金を住宅ローンの返済に充ててもダメだ。あくまでも「その資金で住宅を購入」するのでなければいけない。ただし、本制度の非課税枠で贈与された資金と住宅ローンで得た資金で住宅を購入し、本制度の非課税の適用と所得税の住宅ローン控除の適用を受けることは可能だ。

さらに、贈与された資金の一部だけを住宅用の土地家屋の取得に充て、残額を生活費や他のことに充てるのも非課税の対象外となる。必ず全額を住宅購入に充てなくてはならない。

注意点(3) 居住の意義と期限に注意

住宅購入資金を贈与の目的はあくまでも「住宅を購入して生活拠点として住む」ことだ。そのため、別荘などの購入には適用できない。また、生活拠点としての住宅を購入しても期限までに住まなかったら適用は受けられない。では、その居住すべき期限とはいつなのか。

贈与を受けた年の翌年3月15日まで(※)に住宅の引渡を受け、かつ原則として遅滞なく居住していなくてはならない。贈与税の申告を行う際には移り住んだ証拠として登記事項証明書や新築・取得の契約書の写し、住民票の写しなど一定書類を提出する必要がある。

「原則として」と書いたのは例外があるからだ。例外的に「その3月15日までに住むことが確実」であり、贈与を受けた年の翌年末までに住んでいれば問題はない。この場合、贈与税の申告書に「いつ引っ越し予定か」を書かなくてはならない。

これら要件について見方を変えると、何らかの理由で引っ越し前に住むのをやめた場合、あるいは期限までに引っ越しが間に合わなかった場合、本制度の適用を受けられず、一度適用を受けたとしても後日修正申告して通常の贈与税を納めなくてはならないことになる(ただし、災害等の発生により居住できなくなった場合には適用可能)。資金の贈与も一大事だが、住宅を新築したり、あるいは中古物件を購入したりするのも一大事だ。期限に注意して、贈与も購入も引っ越しも計画的に行ってほしい。

※消費税10%の物件を2021年4月1日から12月31日までの間に贈与された資金で購入する場合には、居住の期限も同年12月31日となる

注意点(4) 贈与のタイミングを

贈与のタイミングにも注意が必要だ。この制度での非課税枠は時期によって変わるからだ。自分自身の仕事や結婚、育児のタイミングと非課税枠の上限のタイミングが合わないと、場合によっては損することになる。

住宅取得等資金の非課税枠は時期によって、さらに消費税が8%か10%かによって次のように変わる。

●消費税が8%の物件の非課税枠

16年1月1日~20年3月31日まで……700万円(省エネ等住宅は1200万円)
20年4月1日~21年3月31日まで……500万円(省エネ等住宅は1000万円)
21年4月1日~21年12月31日まで……300万円(省エネ等住宅は800万円)

●消費税が10%の物件の非課税枠

19年4月1日~20年3月31日まで……2500万円(省エネ等住宅は3000万円)
20年4月1日~21年3月31日まで……1000万円(省エネ等住宅は1500万円)
21年4月1日~21年12月31日まで……700万円(省エネ等住宅では1200万円)

消費税が10%に引き上げられるのは2018年3月時点では2019年10月予定となっている。つまり、引き上げ直前の2019年4月1日から引き上げ後の2020年3月31日までに住宅を購入すると、非課税枠がもっとも大きくなることが分かる。

ただし、期限は1年限りと現行の非課税枠に比べてずっと短い。慌てて検討し、急きょ決断したのでは期限までに契約や居住をすることができない可能性もある。かといって、住宅購入したいと思ったときにすぐ適用を受けたのでは、受けられる非課税枠が小さくなることもある。

贈与も住宅購入も時間も手間もかかる。「まだマイホームなんて考えられない」としても、事前に検討し、準備を怠ることなくメリットを最大化してほしい。

注意点(5) 非課税対象は「受贈者がいくら受け取ったか」

非課税額の適用については、通常の贈与と同じように考える。つまり、「贈与者1人当たりいくらあげたか」ではなく「受贈者1人当たりいくらもらったか」で判断する。仮に一般住宅を購入する場合、父から700万円、母から700万円の資金の贈与を受けた場合、全部が非課税となるのではなく、総額1400万円のうち700万円が非課税となり、残り700万円には贈与税が課されることになる。この理屈は相続時精算課税の特例として活用する場合も同じだ。残額には相続時精算課税制度の非課税枠2500万円から徐々に適用されることになる。

ただし使い方を変えることは可能だ。例えば、700万円の非課税枠を父からの贈与に適用し、母からは相続時精算課税制度の2500万円上限の非課税枠や暦年課税制度を適用することができる。また父母それぞれの贈与に350万円ずつ非課税枠を適用し、残りを相続時精算課税制度の2500万円上限の非課税枠を適用したりすることもできる。

注意点(6) 相続時精算課税制度の特例は「課税の繰り延べ」で終わることも

贈与税の仕組みをあまり知らない人にとって特に魅力的に映るのは相続時精算課税制度の特例の方かもしれない。活用のタイミングに着目し、省エネ等住宅の購入に充てれば(教育資金や結婚・子育て資金との合算で)最大5500万円の非課税の適用を受けられるからだ。

一方、会計士や税理士など専門家にとっては、非課税となる特例制度を含めた相続時精算課税制度を節税策として積極的に紹介するのはいささか気が引ける。最も大きい理由は相続増税時代となった今、相続時精算課税制度自体が節税手段というよりもむしろ課税の繰り延べにしかならなくなってきたからだ。相続時精算課税制度では単年で申告と納税が完結する暦年課税制度と違い、適用対象となった財産は相続開始時に相続財産に持ち戻される。純粋な生前贈与の課税制度というより「贈与税と相続税の一体型」と表現した方がふさわしい。

特例分を含めた相続時精算課税制度の非課税枠が「非課税」として本当にいきるのは、相続開始時に生前贈与を含めたあらゆる相続財産を計算し、相続税の基礎控除額以下となった場合に限る。基礎控除額の計算式は現在「3000万円+600万円×法定相続人の数」となっている。仮に妻1人子1人が法定相続人であった場合は4200万円が基礎控除額、妻1人子2人が法定相続人であった場合は4800万円が基礎控除額となる。

相続時精算課税制度の特例を最大限に活用するために2019年10月に省エネ等住宅を買うための資金の贈与を行い、5500万円ぴったりで非課税枠を使い切ったとしても、相続人が5人以上いなければ相続財産が基礎控除額を下回ることはない。よって相続開始時には5500万円全額が相続財産として持ち戻しとなり、相続税が課税されることになる。

相続時精算課税制度の活用の難しさはこれだけではない。贈与時の財産の時価が相続時の時価よりも低くなければ節税効果は発揮できないし、いったん選択してしまうと、その贈与者・受贈者間では二度と暦年課税制度を選択することができない。さらに、相続人候補が兄弟姉妹など複数いる場合、そのうちの1人に対してだけ相続時精算課税制度の特例を活用して住宅資金の贈与を行っていたとなれば、相続税そのものが上昇するだけでなく、兄弟姉妹間での争いの種になりかねない。

このほか、住宅そのものに関する条件や「本制度の適用を受けた結果、贈与税がゼロになったとしても申告書を提出しなくてはならない」などの注意点がある。独断で判断するのではなく、国税庁のウェブサイトをチェックしたり専門家に相談したりするなどして慎重かつ計画的に適用を受けていただきたい。

鈴木まゆ子
税理士。税務ライター。2000年中央大学法学部卒業後、㈱ドン.キホーテに入社。会計事務所勤務後、2009年税理士試験官報合格、2012年税理士登録。在日外国人の起業・経営支援に従事。共著『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)。東京税理士会王子支部所属。

文・ZUU online編集部

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