筋トレによって健康を得るには適性範囲があるようです。
日本の東北大学、早稲田大学、九州大学の研究者たちによって行われた研究によれば、筋トレによる死亡・心血管疾患・がんのリスク減少効果は、週30分~60分の範囲が最も効果が高かったものの、それより時間が多くなるにつれてプラス効果が消失していく、とのこと。
そして130分~140分で分岐点が訪れ、全く筋トレを行わない場合とリスクが等しくなり、さらに超過によって逆にリスクが大きくなることが判明します。
どうやら筋トレで健康効果を狙うには週1時間程度まで、健康ではなく肉体作りを狙う場合でも週2時間程度までに抑えたほうが、健康への害を抑えられるようです。
ただしこの研究は、複数の研究結果のデータを合わせて分析した(メタアナリシス)ものであり、この事実に対する確かな証拠があるわけではありません。
研究内容の詳細は2022年2月28日にスポーツ科学分野で最も権威ある学術誌『British Journal of Sports Medicine』にて公開されています。
健康目的の筋トレは「週30~60分」を過ぎると効果が減少すると判明!
これまでの研究によって、筋肉トレーニング(筋トレ)のさまざまな健康効果が報告されています。
筋トレに従事することで、がんや心臓病を予防し、全体的な死亡リスクを低下させる効果も認められています。
しかし健康効果を目的とした筋トレにどの程度の時間を費やすべきかは、あまり調査されていませんでした。
そこで今回、東北大学をはじめとした研究グループは、健康効果と筋トレ時間の関係を調べるために、複数の研究を総合した分析(メタ解析)を行いました。
すると、死亡・心血管疾患・全がんのリスクを最も低下させる最適な筋トレ時間がそれぞれ
死亡リスクが最低になるのは週40分(1日換算で約6分)
心血管疾患リスクが最低になるのは週60分(1日換算で約9分)
全がんリスクが最低になるのは週30分(1日換算で約4分)
になることが判明します(低減率は10%~20%)。
しかし、それよりも筋トレ時間が過ぎていくとプラス効果は減少していき、
死亡リスクは週140分(1日換算で20分)
心血管疾患は130分(1日換算で約19分)
全がんは130分(1日換算で約19分)
が分岐点となって、全く筋トレを行わない場合とリスクが等しくなり、さらに超過するにしたがって逆にリスクが高くなっていきました。
一方で、糖尿病のリスクにかんしては単純で、筋トレ時間が長いほどリスクも低くなっていきました。
これらの結果は、健康目的の筋トレには最適な時間があり、やりすぎると逆に、がんや心臓病のリスクを高め早死につながることを示します。
ただし、今回の研究はメタ解析という複数の研究データをまとめたものであり、得られた結果は臨床結果ではなく観察結果にすぎません。
研究者もこの点については注意するよう付け加えています。
複雑な要因を考慮した上で、完全な証拠が示された話ではないので、単純に週140分以上の運動が体に悪いという理解の仕方は問題があるかもしれません
しかし現在、日本などの一部の国では筋トレを身体活動のガイドラインに組み込むべきかどうかの議論が進んでいるので、本研究はそうしたガイドライン策定において1つの指標となるでしょう。
参考文献
ムキムキを目指すだけが筋トレではない。 筋トレで死亡・疾病リスクが減少 週 30~60 分を目安に
30-60 mins of weekly muscle strengthening activity linked to 10-20% lower death risk
元論文
Muscle-strengthening activities are associated with lower risk and mortality in major non-communicable diseases: a systematic review and meta-analysis of cohort studies
提供元・ナゾロジー
【関連記事】
・ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
・人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
・深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
・「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
・人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功