「クモがコウモリを捕食する」という衝撃のニュースがイギリスで報じられました。

2021年7月、イングランド西部シュロップシャーにて、カガリグモ属(Steatoda)の巣に囚われたコウモリの赤ちゃんを発見。

すでに死んでおり、体の一部が変色していることから、クモに食べられたことが判明しました。

これは発見者がSNSで報告したことで、動物学者の目に留まり「カガリグモがコウモリを捕食した世界初の事例」として論文発表されています。

この論文は、2022年2月21日付で科学雑誌『Ecosphere』に掲載されています。

目次

  1. カガリグモが「哺乳類」を食べたケースはない

カガリグモが「哺乳類」を食べたケースはない

シュロップシャー在住のワイルドライフ・アーティスト、ベン・ワダムズ(Ben Waddams)氏は昨年7月、自宅の外壁に張られてあったカガリグモ(学名:Steatoda nobilis)の巣に、コウモリの赤ちゃんがかかっているのを発見しました。

ワダムズ氏はそれを写真に撮り、ソーシャルメディアで公開。

その画像がアイルランド国立大学(NUI)の動物学者であるミシェル・デュゴン(Michel Dugon)氏の目に留まりました。

デュゴン氏は、NUIのヴェノム・システム・ラボ(Venom Systems Lab)の所長を務め、生物毒の進化について研究しています。

氏は画像を目にし、「カガリグモがコウモリを捕食するケースを始めて見た」と話します。

こちらが実際の画像です。体の変色した部分は、クモが食べたことを示します。

カガリグモが「コウモリの赤ちゃん」を捕食! 世界初の事例
(画像=捕食されたコウモリの赤ちゃん。頭がお腹側に丸まり(青矢印)、右翼が胴体に折り畳まれてねじれ(赤矢印)、尾部が折りたたまれて変色している(黒色)。この変色部がクモに食べられた場所。 / Credit: Michel M. Dugon et al., Ecosphere(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

カガリグモはもともと、イベリア半島の南西方向にあるマデイラ諸島とカナリア諸島の固有種でした。

しかし、1879年にイングランド南部に到達し、その後スコットランドやウェールズ、アイルランドに拡散。

現在では、ヨーロッパの他地域やアジア、アメリカ大陸でも普通に見られます。

世界には鳥を捕食するような巨大グモがいますが、カガリグモはクロゴケグモと近縁で体も小さく、哺乳類を捕食した例はありませんでした。

カガリグモはゴケグモ属と同じ神経毒を持っており、この毒を使ってトカゲを麻痺させ、捕食した例が報告されています。

大人のコウモリも巣にかかる!

デュゴン氏によると、今回コウモリを捕食したカガリグモは、成熟したメス個体と同定されています。

また、巣にかかったのは赤ちゃんのコウモリで、ワダムズ氏の自宅の屋根裏に住んでいたコロニーのうちの1匹でした。

それを知ってか知らずか、カガリグモはコウモリの出入りする隙間の真下に巣をかまえ、そこに運悪くコウモリが引っかかったようです。

コウモリの赤ちゃんは、巣から逃げられないよう、糸でぐるぐる巻きに固定されていました。

さらに驚くべきは、その後、1匹の大人のコウモリが巣にかかったことです。

カガリグモが「コウモリの赤ちゃん」を捕食! 世界初の事例
(画像=大人のコウモリも引っかかる / Credit: Michel M. Dugon et al., Ecosphere(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

ワダムズ氏が観察したところ、コウモリはまだ生きていたので、巣からすくい上げて、隣の壁に放したとのこと。

晴れて自由の身となったコウモリは、すごすごと屋根裏のねぐらへ帰っていったといいます。

カガリグモが「コウモリの赤ちゃん」を捕食! 世界初の事例
(画像=自由の身となったコウモリと、メスのカガリグモ / Credit: Michel M. Dugon et al., Ecosphere(2022)、『ナゾロジー』より 引用)

コウモリを食べるクモは、南極大陸を除くすべての大陸で確認されています。

今回の衝撃的ニュースから、”コウモリを狩れるクモ”としてカガリグモが正式に仲間入りしたようです。

参考文献
False widow spider preys on baby bat in never-before-seen encounter
False Widow Spider Spotted Killing And Eating Bats For The First Time
元論文
Webslinger vs. Dark Knight First record of a false widow spider Steatoda nobilis preying on a pipistrelle bat in Britain

提供元・ナゾロジー

【関連記事】
ウミウシに「セルフ斬首と胴体再生」の新行動を発見 生首から心臓まで再生できる(日本)
人間に必要な「1日の水分量」は、他の霊長類の半分だと判明! 森からの脱出に成功した要因か
深海の微生物は「自然に起こる水分解」からエネルギーを得ていた?! エイリアン発見につながる研究結果
「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
人工培養脳を「乳児の脳」まで生育することに成功