1週間ほど前から、当クリニックと密に連携をとっている高齢者介護施設で新型コロナのクラスターが発生しています(現在進行形)。
当院のドクター(私一人)がPCR検査から訪問診療まで担当し、今のところ病院搬送ゼロ、全て施設内で対応しているので、その施設内での介護対応と、診療の報告を2回に分けて報告しようと思います。今回が2回目です。
前回紹介したこちらの写真、写ってる高齢者さんもスタッフも全員PCR陽性、最年長は99歳です。
陽性者でもこんなほのぼのとした軽症の方もおられれば、中等症〜重症の方もおられます。もちろん超高齢なので、生きている事自体がリスクと言えないこともないわけで、こちらの写真の方のように発熱や食事・水分摂取の低下で点滴が必要になる方もおられます。
今現在2名の方が施設内で毎日の点滴と酸素投与、更にモルヌピラビルなどの新薬投与で対応(全て施設への往診で)しています。
新型コロナ感染症への治療という意味では、このような治療はほぼ病院で行われる治療と同じものです。つまり病院に入院してもこれ以上の治療はほぼないのです。あるとすれば、口からノドに管を入れて強制的に呼吸を促す人工呼吸器の使用、または、それを口から入れるのではなくノドボトケあたりから挿入するための気管切開術、更に血液の中に酸素を入れたり二酸化炭素を出したりするECMOなどですが、超高齢になってそこまで体に侵襲的な治療を希望される方はそんなに多くありません。
ただ、これは決して医師や行政が一方的に「高齢だから人工呼吸器は使用しない」と決めるということではなく、長い時間をかけたコミュニケーションの末に得られる情報で有るべきです。一律にマニュアル化されるべきことではなく、個別の事例でしっかり当事者間の対話の上で決められるべきということです。プライマリ・ケア医の仕事のなかでもこの部分はとても大きなウエイトを占めています。
私は普段から全ての在宅患者さんに対し、長い時間をかけて、ご家族のお話を「傾聴」し、そのお話のすべてに「共感」し、その考えで問題ないという「承認」の意を示す、信頼関係を築くコミュニケーションを続けています。そのなかでは、時に「人工呼吸器や気管切開などはどうする?」というお話が出てくることがあります。そこを狙うのではないのですが、流れの中でふっとそういう話を出るのです。
こうした密なコミュニケーションをとりながら提供されるプライマリ・ケア医療の末に展開される終末期医療では、多くのケースで救急車や病院の出番がありません。
私が以前いた夕張市では救急搬送が半減したのですが、それは「患者さん・ご家族と親密なコミュニケーションが取れるプライマリ・ケア(在宅医や訪問看護)」があったからなのです。
今回の施設内クラスターでも私はまだ一回も救急車も呼んでいませんし、病院に搬送もしていません。希望があればすぐにそうしますが、そうしたご本人にもご家族からもそういう希望が全くないのです。
聞けば、一般的な高齢者施設ではコロナ患者が出たら多くのケースで施設内対応ができず病院に搬送されるそうです。本当にその高齢者さん・ご家族は入院することを望んでいたのでしょうか?そんなことは関係なく、施設内で対応ができない、施設に来てくれる在宅医がいない、などの医療・介護の提供側の理由で病院に搬送されてしまうのではないでしょうか?
もちろん本当に重症なコロナ患者さんもおられますので、百歩譲って救急車で病院に搬送することもあるかもしれません(きちんとコミュニケーションを取っていればそれすら殆どないと思いますが)、でも私が診ている99歳のほぼ無症状の高齢者の方はじめ、5名の陽性者の方々全員を入院させせざるを得ないのなら病床が逼迫してしまうのは当たり前です。
そう考えると、病床逼迫・医療崩壊などの問題の最上流にあるのは、「地域の中で展開されるしっかりしたプライマリ・ケアの不足」と言わざるを得ません。
2類から5類へ変更することはとても重要なことですが、5類になっても対応する在宅医がいなかったり、普段から本人やご家族ときちんとコミュニケーションをとっているプライマリ・ケア医がいなかったら、結局みんな救急車で病院に搬送されてしまう…そんな自体も容易に想像ができます。
もちろん「そんなプライマリ・ケア医、どこに居るんだ?」という意見が大多数だと思います。正直なところ、地域にプライマリ・ケア医はほとんどいません。
ではなぜあなたの地域にプライマリ・ケア医がいないのか? それは、あなたがプライマリ・ケア医のことを認識もしていないし、あなたを含めた国民の殆どがプライマリ・ケア医を欲してもいないからです。
医師は、国民の希望に敏感ですのでみなさんが望めばきちんとしたプライマリ・ケア医も増えるのです。私もその世界がくるために全力を尽くしています。コロナ禍を一日にも早く終わらせるためにも、日本の幸せな高齢化社会を築くためにも、みんなでプライマリ・ケア医を育てていきましょう。
文・森田 洋之/提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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